第69話 再挑戦

 俺たちが食堂に戻ってからおよそ一時間後。

 フローレンス伯爵に調査報告を終えたリカルドさんたちが戻って来た。


「何? もう塔を攻略したのか?」


 俺からの報告を受けたリカルドさんも、さすがに驚いていた。この塔に眠るお宝を気にかけていたからなぁ。

 

「まいったねぇ……伯爵殿はここを《エンシェント・タワー》って名付けて、正式なダンジョンにしたいと張り切っていたのだが」

「でも、ここってふたつの領地をまたいでいるんですよね?」

「ああ。まあ、それ自体は決して珍しいことじゃない。問題はどちらがダンジョンの優先保有権を得るかだが……フローレンス伯爵のあの浮かれようを見ていると、何やら切り札があるようだ」


 その辺は俺たち冒険者の踏み入る領域じゃないよな。

 

「しっかし、この塔に価値がないと分かったら、掌を返して保有権を放棄する可能性もあるな」

「一応、二階部分で見つかった楽器なんかは高額でしたけど」

「世間一般では確かに高額の部類だが、あの伯爵はもっと高い価値を求めていた――それこそ、解錠レベルが四桁を超えるような、バケモノじみたお宝を」


 解錠レベル四桁。

 世界を見渡しても数十例しかないとされる、まさにレジェンド級のアイテム。


「さすがにそれは……」

「俺も忠告したんだが……なあ、エリオット」

「ああ……だが、あれはおまえのせいじゃない。浮かれ倒している伯爵が悪い」


 温厚なエリオットさんにここまで言わせるとは。

 相当舞い上がっているようだな、伯爵。


「そう考えたら、お宝がないという事実はあの浮かれ伯爵にとっていい薬になりそうだ」

「しかし、アイアンビートルなどのモンスターからドロップするアイテムは高価な物が多い。どのみち、ここは冒険者にとって攻略しがいのあるダンジョンになるだろう」


 パーティーの頭脳とも言える参謀役のエリオットさんはそう分析した。


「確かに……よかったな、バラク。これからさらに商売は繁盛するぜ」

「となると、もう少し席や仮眠室の規模を広げてもよさそうだな」

「ちゃんとさばききれるのかよ」


 意地悪な笑みを浮かべるリカルドさん――その時、ふと俺と目が合った。そして、


「フォルト……どうやら、おまえは自分の報告に納得いっていないようだな」

「えっ?」

「現場を直接見ていない俺から言えることなんて限られるが……まだあそこに何かあると思っているんだろ?」

「……はい」


 凄いな、この人は。

 こちらの表情を一瞥しただけでその心理まで読み解く――さすがはSランクパーティーのリーダー。きっと、みんなもそれを理解しているから、自分のことをよく理解してくれていると分かっているから、ついていこうと思うんだな。

 

「周辺を調査した結果、何も見つかりませんでしたが……何かあるはずなんです、あそこには」

「分かった。だったら塔の調査期間をあと三日延長する。それまでに答えを見つけだしてこい」

「はい!」


 リーダーのお許しが出た。

 俺は仮眠室で休憩しているミルフィたちに事情を説明し、再びあの塔の最上階へと向かうことを伝える。


「そうこなくっちゃ!」


すぐさま聖女の拳を装備したイルナは、ガンガンと拳をぶつけながら気合をあらわにする。


「私たちとしても、あの結果は消化不良というか、ずっとモヤモヤしていたものね」

「もう少し時間をかけて周囲をじっくり探索すれば、何か分かるかもしれません」

「やりましょう!」


 ミルフィ、ジェシカ、マシロも気合十分だ。


「よし……今度こそ、あの塔の謎を暴くぞ!」

「「「「おおー!」」」」


 こうして、俺たちは再び塔の三階を目指すことを決め、その日は早めに就寝して明日に備えるのだった。

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