第62話 力の差

「さあて……どう料理してくれようか」


 いつものように下卑た笑みを浮かべながら、レックスは氷樹の剣に魔力を注ぐ。

 そうすることで生まれる魔力で生み出された氷の剣。

 あれの斬撃は、破邪の盾でも防ぎきれない。

 破邪の盾は魔法攻撃と斬撃――そのどちらかしか防げないため、同時に仕掛けられると効果を失くす。これは間違いなく、第三者の入れ知恵だ。

 

「へへへ、どうしたぁ? ビビっちまったかぁ?」


 ……凄い自信だな。

 ていうか、こんなやりとり前もしたぞ?

 後ろで見ている連中も、そうだけど……こちらと戦うための秘策が、他にもあるっていうのか?


「おらおら! さっさと攻めて来いよぉ!」


 ……攻めて来い、か。

 確かに、攻撃は最大の防御って言うものな。


「なら……そうさせてもらおうかな」

「何?」


 レックスの顔が歪む。

 なんだ……俺が無条件降伏するとでも思っていたのか?

 いや、きっと、俺が強気でいられる最大の理由が、破邪の盾にあると踏んだのか? マシロを追いかけていた時に見せたアレを、ただのハッタリと思っていたのか?


 ――目に物を見せてやる。

 俺は龍声剣にありったけの魔力を込める。


 ゴォッ!


 やっておいてなんだけど、自分でも驚くくらい魔力が爆ぜた。


「なっ!?」


 レックスは驚きのあまり、手にしていた氷樹の剣を手放す。カランカランという金属音がむなしく辺りに響いた。さっきまで余裕の表情を浮かべていた後ろの連中も、一瞬で変化した状況に顔が引きつっている。


「氷の剣か……」


 だったら、属性は――炎だ。

 一層魔力が高まると、剣から音が聞こえてくる。

 その音は、まるで龍の唸り声。

 龍声剣の名前の由来となっている音だ。


「りゅ、龍の唸り声……」

 

 あ。

 レックスも気づいたっぽいな。

 

「ク、クソが! 聞いてねぇ! こんな話は聞いてねぇぞ!」


 聞いてないというより、アドバイスをくれた人に言ってないんじゃないかな。いつも口酸っぱく、「情報は正確に伝えろ!」と怒鳴っていた割には、自分自身ができていないじゃないか。


「レックス! さっきの言葉通り――こちらから攻めさせてもらうぞ!」

「ひっ!?」


 すでにレックスは戦意喪失状態だった。

 ――だが、許すわけにはいかない。

 ミルフィのこともそうだし、マシロのことだって……あの時、偶然俺たちが通りかかったからよかったものの、もしそうじゃなかったら、今頃マシロは――


 その先を想像したら、もう止まらなかった。


「食らえっ!」


 龍の唸り声は炎に姿を変えてレックスたちを呑み込んだ。


「ぎゃあああああああああああっ!?」


 のたうち回り、火を消そうとする。

 そんなに火が嫌なら、次は水だ。


 俺は龍声剣の属性を水に変えた。


「俺たちは――もうおまえたちに構っているほど暇じゃないんだ!」


 自分の気持ちを包み隠さずさらけ出したと同時に、俺は剣を振った。すると、魔力によって生み出された水流が、レックスたちに襲いかかる。それはまるで……これまでの暗い過去を洗い流すようだった。



「うわああああああああああああああ!!」


 そのままダンジョンの端まで吹っ飛び、岩壁に叩きつけられると、全員気を失ったようだ。

 俺は剣を鞘へおさめると、振り返って塔を目指す。

 すると、ミルフィたちと一緒に戦いを見守っていたグレイスさんが声をかけてきた。


「彼らには余罪があるようだ。拘束魔法で身柄を捕らえ、自警団に突き出すとしよう。黒幕も吐き出すだろうさ」

「……はい」

「その辺の事後処理はやっておくから――彼女たちの祝福を全身で受け止めるといい」

「えっ?」

 

 顔を上げると、そこにはミルフィ、イルナ、ジェシカ、マシロがこちらに駆け寄ってきていた。そして、俺に抱きつき、いろいろと言葉をかけてくれたんだが……みんな同時にしゃべるものだからいまいち聞き取れなかった。


 でも、まあ……とりあえずはこれでよかったかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る