第61話 再戦

「やはりここにいたのか――フォルト!」


 聞き慣れた声がした。

 ……できれば、もう聞きたくない声だ。


「レックス……」


 以前、マシロを追ってきたレックス。

 あの時の感じだと、黒蜥蜴の下についたって感じだった。ということは、バックには王宮鍵士ロイヤル・アンロッカーのドン・ガーネスがついている。


 その強みもあってか、レックスの表情は自信に満ち溢れていた。

 ――って、この前のやりとり覚えていないのか?

 ミルフィたちもそれを覚えているので、「なんだ、またか」って反応だ。


「そんなに女を侍らせて、随分といいご身分じゃねぇか。えぇ?」


 ぞろぞろと近づいてくるのは計六人。

 全員、元パーティーメンバーだ。


 気になったのは手にしている武器や防具の数々。明らかに、前に装備していた物より質がよくなっている。ドン・ガーネスに回してもらったのか?


「無粋な連中だな。……しかし、いい武器に防具を揃えている」


 居合わせたグレイスさんも、それに気づいたようだ。


「表に出な。こいつでケリをつけてやる」


 そう言って、レックスが俺の前に差し出した剣。

 これ、確か前にカタログで見たぞ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


アイテム名 【氷樹の剣】

希少度   【★★★★★☆☆☆☆☆】

解錠レベル 【192】

平均相場価格【20万~30万ドール】

詳細    【斬撃に氷魔法をまとわせることができる】


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 ……なるほど。

 物理攻撃と魔法攻撃を同時に与えられるってわけか。

 

 こちらには破邪の盾がある。

 魔法と物理――どちらの攻撃も防げるが、その両方が同時に襲ってくると完全には防げない。


 レックスにそんな機転が利くとは思えない。

 恐らく、ヤツにその剣を与えた人物が、破邪の盾のウィークポイントをつくために持たせたと考えるのが妥当か。


「なんだぁ? ビビったのか、フォルト!」

「……分かった」


 いい武器を手に入れたことで気が大きくなっているレックス。

 ただ、破邪の盾を封じてくる武器を装備している以上、何か裏に別の手立てがあると警戒しておくべきか。


「ふむ。何か込み入った事情がありそうだね」


 一部始終を見ていたグレイスさんはそう呟く。直後、イルナが俺のことも含めてこれまでの経緯を早口で説明していた。


 そうしている間に、俺はレックスたちと共に店の外へ。

 ジェシカやマシロ、さらに店主や店員、客までもがこちらに視線を集めている。


 外に出て気づいたのだが、塔の周辺にモンスターの姿がない。

 この塔近辺には近寄ってこないのか?

 って、そういえば、リカルドさんたちはそろそろこっちへ到着するかな?


「どこ見てやがる!」


 俺がリカルドさんたちを気にかけていると、レックスが先制攻撃を仕掛けてきた。

 氷樹の剣から生み出された氷が、真っ直ぐこちらへ向かって飛んでくる。ひとつひとつが矢のように鋭く尖っていて、まともに食らったら大ダメージは必至だ。


 ――が、これなら破邪の盾で防げる。


 俺は腕輪の形状をした破邪の盾に魔力を注ぐ。

 直後、氷の矢は俺に接触する前にすべて消え去った。


「なるほど……あの人の情報通りだ」


 ニタニタと笑うレックス。

 あの人――そいつが、黒幕ってわけか。

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