第59話 ダンジョン食堂
未知なる塔のダンジョン。
――と、いう触れ込みだったはずが、
丸テーブルを囲って、人々が食事や歌を楽しんでいる。圧倒されるくらいの盛り上がりに呑み込まれそうだ。
「あ、あの、どうしましょうか、フォルトさん」
ジェシカも困惑気味にたずねてくる。
他のみんなも似たような反応……まあ、わけがわからんのだろう。俺だってわけがわからんし。
あれだけの冒険者たちが足止めを食らうほどのモンスターが潜んでいるのだろうと気合を入れていたのに、蓋を開けてみたらそこはただの居酒屋だったなんて。
とりあえず、今後の方針を練り直すためにも一旦席に着こうという話になり、一番近くにある大きなテーブルに全員で座ることに。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
俺たち全員が座ったのを見て、通りかかったウェイトレスの女の子がメニューを置いていった。……マジでここ食堂なのか?
「他の冒険者たちはみんなこの食堂で足止めを食らっているようね」
「足止めねぇ……」
周りの騒がしさからして、みんな望んでここにいる気がするんだよなぁ。それとも、ここでバカ騒ぎにするのが攻略に何か関係しているのだろうか。
「「「「ギャハハハハハハハ!」」」」
……絶対関係ないわ、これ。
「と、とりあえず、メニュー見ますか?」
マシロがそう尋ねてくるが……いやいや、それどころじゃないって。
困惑していると、先ほどのウェイトレスの子がやってきて、まだ注文していないのに関わらずドンとフライドポテトが大量に盛られたお皿が置かれた。
「え? ま、まだ注文していないけど?」
俺が言うと、ウェイトレスは変わらぬ営業スマイルで、
「あちらのお客様からです」
と言った。
あちらのお客様って……普通は飲み物とかじゃない? そもそもここに知り合いがいるとは思えないんだけど。一体誰だ? ウェイトレスの子が言う「あちらの方」は、その視線からカウンター席にいる人物のようだけど――
「相変わらず、君の周りは可愛い女の子ばかりで羨ましいよ」
聞き覚えのある声だった。
その人の名は、
「グレイスさん!?」
「久しぶりだね。砂漠のダンジョン以来かな?」
冒険者パーティー月影のリーダーである女性冒険者・グレイスさんだった。
「どうしてここに!?」
「私はこの店の常連客なのさ」
「じょ、常連? じゃあ、何度も来たことが?」
「ああ。君たちは初めて来たのかい?」
「い、いや、それは……」
俺たちはグレイスさんに事の顛末を告げる。
ついでに、マシロの自己紹介もしておいた。
すると、
「うん? あれ? 君はもしかしてガーネスシアターの歌姫さんじゃないかい?」
「あ、そ、そうです」
答えてから、マシロは口を手で覆った。
すっかりパーティーに馴染み、今もこうして一緒にダンジョンに潜っているわけだが、一応、ドン・ガーネスの一味に狙われている立場だった。
「ああ、心配しなくていいよ。いちいち詮索はしないし、私はこれからレストンの街へ帰るところだったし」
「レストン?」
「む? 君たちはレストン郊外にある入口から来たわけじゃないのか?」
グレイスさんは皿に置かれたフライドポテトをつまみ始めた。それを皮切りに、みんなも一斉にポテトをむしゃむしゃ。
グレイスさん曰く、この塔のダンジョンはすでに何年か前に存在が確認されているらしかった。
最初に見つかったのはレストンという街で、フローレンス家の領地からは離れた位置にある。だからきっと、発見済みであることを知らなかったのだろうと教えてくれた。
「ダンジョンの入口が複数存在しているということは決して珍しいことではない。どうやら、さすがのリカルドもここの存在は知らなかったようだね」
「確かに……これまで、レストンという街を訪れたことはなかったわ」
霧の旅団でもっとも古株であるイルナが言うのだから間違いないだろう。
ただ、そうと分かった瞬間、ガクッと脱力した。
「なんだ……未知のダンジョンってわけじゃなかったんですね」
「……あながちそうでもないぞ」
ポテトを頬張るグレイスさんが意味深は発言。
その根拠は――
「確かに、一階部分は厨房でフライパンを振り回している元冒険者の店主が開いたダンジョン食堂だが――二階から上は未だに誰もたどり着いていない、未知の領域だ」
「「「「「えっ!?」」」」」
俺たち五人は声を揃えて驚いた。
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