第58話 塔内部へ
「ジェシカ! あたしが動きを止めておくからそのうちにあいつの首を吹っ飛ばして!」
「お任せください!」
塔のダンジョン本格攻略初日。
イルナが一歩目を踏み出したのを視認してから、ジェシカは炎神の矢を放つ。硬い装甲の隙間――足の関節部分に炎の矢が刺さると、昨日とは別個体のアイアンビートルは大きくバランスを崩した。あらわになった首回り目がけて、俺は龍声剣を突き立てる。
「グギャアッ!」
断末魔の雄叫びが塔の聖窟にこだました。
「「「イエーイ!」」」
三人でハイタッチ。
さすがに二度目ともなれば、一度目よりもスムーズに倒せるな。
「
「みんな凄いです!」
ミルフィとマシロに笑顔で労われると、戦いの疲れも吹っ飛ぶな。
その後、アイアンビートル(二匹目)を撃破してからは、モンスターに遭遇することはなかった。
作戦通り、リカルドさんたちが派手に戦闘をしているおかげで、こちらに出現するモンスターの数は激減。おかげで、俺たちは最低限の戦闘をこなすだけでサクサクと前進することができた。
ここまでは実に順調。
なんの問題も発生せず、事前の打ち合わせ通りとなっている。
「このまま無事にいってくれるといいんだけどね」
「ホントそうですね」
「油断するなよ、ふたりとも」
イルナとジェシカは少し気が緩んでいるようだが、それも無理はないかもしれない。何せ、最初にアイアンビートルと戦って以降は何も出てきていないのだからな。ここまでうまくいくとは思ってもみなかった。
不気味な静けさの中を進み続け、俺たちはようやく塔へと辿りついた。
「おぉ……近くで見ると凄い迫力だ」
塔の高さは、近くに立ってみるとよりハッキリとその巨大さを認識できる。
フローレンス伯爵の話では、この塔のダンジョンでは宝箱ドロップ率の検証を優先して調べるよう指示されているが、実はもうひとつある条件も提示されていた。
それが、塔自体の攻略だ。
外観から、塔は何階かフロアが存在していることが分かる。
そこに何があるのかを調べてきてほしいというのだ。
トラップがあったり迷宮のように入り組んでいたりと、宝箱のドロップとは関係なく塔自体の調査もしてきてほしいという要望だったが、こちらはあくまでもおまけ的な扱いでいいとのこと。
しかし……本当に大きい塔だな。
見上げ続けていたせいで、なんだか首が痛くなってきたぞ。
これ以上炒める前にとっとと入ってしまおう。
「開けるぞ」
荘厳な扉に手をかけて、ゆっくりと押していく。
開けた瞬間にモンスターが飛び出す可能性も考慮して、俺を除いたメンバー全員が臨戦態勢をとっている。
ギギギ、という重厚な音を立てながら開けた扉の先に待っていたものは、
「へいらっしゃい!」
なぜか、俺たちは元気よく塔へと迎え入れられた。
誰に?
――ねじり鉢巻きをしたおっさんに。
「お客さんは全員で五名ですか?」
「あ、は、はい」
勢いに負けて返事をしてしまったが、お客ってなんだよ。
「空いている席へ自由にどうぞ!」
おっさんはニコニコと曇りのない笑顔を張り付けたまま立ち去り、別のテーブルに座る客からのオーダーを受け取っている。
「な、なんだよ、これ……」
誰も立ち入ったことのないはずのダンジョンにある、古代遺跡と思われていた塔の一階は――活気に満ち溢れていた。
一体、何がどうなっているんだ……?
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