第54話 新たな目的地

「発表がある!!」


 新しい拠点での生活にも慣れた頃。

 リーダーのリカルドさんが朝っぱらかメンバーを集めてそう叫んだ。


「しかも今回は凄いぞ~。あのフローレンス家からの依頼だ」

「フローレンス家?」


 俺は首を傾げる。

 どっかで聞いたことがあるような、ないような?


「おいおい、自分たちが今いる土地の領主くらいは把握しとけよ」


 そ、そうだったのか。

バッシュさんからもらった《賢者の地図》で、この街がレゲン大陸ゾルダン地方の北端にあるっていうのは知っていたけど、言われてみれば、領主の存在は今までまったく気にしたことなかった。さすがに他のみんなは知っていたみたいだけど。


「依頼内容だが、前にもやった、新発見ダンジョンの調査だ」

「サンド・フォールの時と同じですね」

「そうだ。このダンジョン最大の特徴は、ダンジョン内に塔――つまり、人工的な建造物があるという点だ」

「ダ、ダンジョン内に塔が?」


 周りは騒然となる。

 建造物があるダンジョンなんて、聞いたことがない。


「最初は付近の街の治安維持部隊が名うての冒険者たちを集めて出現モンスターや宝箱のドロップ率の調査を開始したが、これがあまりうまくいってないようでな」


 それほど攻略難易度が高いというわけか。

 サンド・フォールだって、決して攻略が簡単なダンジョンってわけじゃなかったし。


「とうとう領主であるリチャード・フローレンス伯爵様ご自身が陣頭指揮を執ってダンジョンの調査に当たられることとなった――そこで」

「俺たちにもその調査に参加してほしい、と」

「そういうこった。おまえたちが砂のダンジョンでアサルトスコーピオンを撃破したという話が、リシャード様に届いたようでなぁ。なんとか参加させられないかって俺に依頼されたんだ」

「リチャード・フローレンス伯爵……その方でしたら、以前、お会いしたことがありますね」


 そう言いだしたのはジェシカだった。


「ほ、本当か?」

「ええ。王国内での立場はかなり高い人物ですが、気さくで優しいおじさまという印象ですね」


 ジェシカの話を聞く限り、いわゆる頭ごなしに平民だの高貴な存在だのと騒ぎ立てる悪役貴族ってわけじゃなさそうでよかった。

 大体の内容を把握できたところで、リカルドさんはまとめに入る。


「フォルトたちは、すでにワルド隊長とフラン婆さんというこの街の二大人物から厚い信頼を得ている。ダンジョンでの修業も順調なようだし、そろそろ本隊である俺たちと一緒にダンジョンへ向かうか」

「「「「「!?」」」」」

 

 ついに修業期間を終える時が来た。

 リカルドさんからのGOサインに俺はもちろん、ミルフィ、イルナにジェシカ、そして新たに加わったばかりのマシロの四人も気合十分だ。


「たとえ塔の攻略に苦戦したとしても、おまえたちの真摯な働きを見れば、フローレンス伯爵も気に入るはずだ。貴族とつながりを持つことは冒険者にとって一種のステータスに等しい。それだけで、このパーティーは他の冒険者たちよりも一歩も二歩も先の存在となる」


 長い物に巻かれよって考え方はあんまり好きじゃないけど、一理ある。

 貴族からの依頼となれば、やらしい話しだけど報酬も期待できるし……うん。悪い話ではないと思う。

あと、単純に新しいダンジョンに潜ってみたいって個人的な願望もある。


「そう決まったら、明日の朝に移動を開始する。各自、それまでにアイテムや武器の準備を調えておいてくれ」

「「「「「おおう!!!!」」」」」


 野太い歓声が沸き上がる。

 他のみんなも気合十分だな。

 俺たちも負けないようにしないと!


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