第53話 誤算、そして次なる手【レックスSide】

 レックスにとってはすべてが誤算だった。


 名うての冒険者パーティー《黒蜥蜴》のアダンから依頼され、シアターから脱走して行方不明となったマシロという少女を連れ戻そうと捜索を開始。見事その足取りを掴んで捕らえる一歩手前までいったが――思わぬ邪魔が入った。


 それが元メンバーのフォルトとミルフィだ。


 フォルトはてっきり死んだものと思っていたが、しぶとく生き抜いており、おまけに強力な武器まで有しており、とてもじゃないがまともに戦えないと逃げだした。


「……それがあなたの言い訳ですか?」


 起こった事実を、レックスはアダンへ報告していた。

 場所は都市部から遠く離れた辺境の田舎町の宿屋。

 後ろ暗い行為を繰り返し、多くの冒険者パーティーからあまりよく思われていない黒蜥蜴の拠点地は、大体ひと目の少ない小さな村などがメインであった。


「け、けどよぉ、とても今の装備では太刀打ちできそうにねぇ……」

「そうですか……」


 アダンは何事かを思案しているらしく、顎に手を添えて熟考。

 しばらくして、


「分かりました。この件については、私からボスの耳に入れておきましょう。武器の剣ですが……明日、こちらへ届けさせます」

「! か、感謝するぜ!」


 レックスは深々と頭を下げる。

 もちろん、内心は感謝など微塵もしていない。 

 いずれはこのアダンさえ蹴落として、彼のバックにいる王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーのドン・ガーネスに取り入ろうとしていたのだ。


「あなた方の見つけたマシロという少女は、ボス――ドン・ガーネス様の一番のお気に入りです。もし、彼女を無事にボスのもとへ届けることができれば、あなたたちの株も大いに上がるでしょう」


 口ではそう言っているが、どうせ自分だけの手柄にするつもりだろうと読んでいたレックスは、見つけて捕らえ次第、アダンに報告せず、そのままドン・ガーネスのもとへ連れていこうと計画していた。


 ――が、ここでアダンから思いもよらぬ情報が与えられる。


「そういえば、そのフォルトという少年は霧の旅団に入ったんでしたね」

「!? き、霧の旅団!?」


 レックスたちは驚きの声をあげる。


「き、霧の旅団といえばSランクパーティーじゃねぇか……なんだってそんな連中があの役立たずを……」

「そう思っていたのは君たちだけじゃないのかい? 本来の彼は才能に溢れた逸材であったのに、君はそこに気づかなかった。――だが、Sランクパーティーである霧の旅団のメンバーの目には逸材に映った、と」

「!?」


 レックスは何も言い返せなかった。

 もし、つまらない意地を張らず、フォルトにスキル診断をさせていれば、もっと違った利用方法もあったはず。そうすれば、こんなところでこんなヤツに頭を下げる必要はなかった。フォルトとミルフィを利用し続ければ、自分たちだけでものし上がっていけたはずだ。


「霧の旅団はメンバーの数こそSランクパーティーの中では少ない方ですが、個々の戦闘力は目を見張るものがある……しかし、そろそろ我々が周囲の評価をもうワンランクあげるためにも、ここら辺で大きな戦果をあげておく必要がありそうですね」

「じゃ、じゃあ!」

「明日こちらへ持ってくる武器は今の物とは比べ物にならない優れ物を揃えましょう。万が一にも、それを持って逃げだそうとすれば――」

「分かっている。あんたたちに逆らうようなマネはしねぇ。俺たちだって無駄死にはしたくねぇからな」

「ならばよいのです。ああ、そうそう。彼らの居場所ですが……恐らく次に潜るダンジョンはここです」


 アダンは持っていた地図を広げ、霧の旅団が次に潜るダンジョンの場所を指で示す。


「なんでそれが分かる?」

「ある筋からの情報ですよ。とある貴族と、リーダーのリカルドが近いうちに接触し、その貴族から調査依頼されるという。その内容から、まず間違いなく、霧の旅団はこの依頼を受けるでしょう」

「なるほどな……」


 ニッとレックスの口角が上がる。

 そこへ先回りして霧の旅団を待てということだ。


「――では、まず手始めとして、歌姫マシロの奪還と、あなたと因縁があるというフォルトという少年を葬ってきてください。それが宣戦布告になるでしょうから」

「「「「「おおっ!」」」」」

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