第52話 ダンジョンデビュー

「グガァッ!」 

「このっ!」


 俺の放った炎魔法は完璧に直撃コースだった。

 しかし、敵は地中に潜ることでそれを回避する。




 ――この日、マシロを新メンバーに加えた俺たちは、彼女の初陣を飾るため、初心者向けダンジョンであるグリーン・ガーデンを訪れていた。

 しかし……初戦から予期せぬ大物と出くわしてしまう。

 涎をまき散らしながら迫り来る獰猛な獣――その名をツリーシャーク。

 木製の鮫と言えば南国のお土産品っぽいが、その正体は背びれだけを地上に出し、地中を移動する体長三メートルを軽々と越すモンスターだ。


「くそっ! また外した!」


 当たる寸前のところで地中へと潜るツリーシャークに、だんだん苛立ちが募ってくる。


「すばしっこい敵ね!」

「落ち着いていけよ、イルナ」

「分かっているわ! 次にあの鮫が顔を出した時……その顔面に一発叩き込んでやるんだから!」

「その意気だ! ジェシカ、後方からの支援頼むぞ!」

「お任せを!」

「ミルフィ! 防御魔法をいつでも展開できるようにしておいてくれ!」

「えぇ!」

「マシロは俺たちのそばから離れないように!」

「は、はい!」


 それぞれに指示を出し、俺たちは再度戦闘態勢へ移行。

 地中を移動するツリーシャークの背びれが浮き上がったのを見て、ジェシカが敵の攻撃が迫っていることを知らせる。地面を抉り、大きな口を開けて俺たちを飲み込もうとするツリーシャークをかわし、すぐさま反撃体勢を取るが、その時にはすでに地中へ潜ってしまったあとだった。


「これじゃあ埒があかないぞ……」


 何か弱点はないのか?

 ――弱点?

 ふと、俺は以前耳にしたある冒険者の話を思い出した。

 鮫の鼻柱には神経が集中していて、襲われた際にはそこを殴れってことだったはず。ただ、俺は海にいる鮫の話だったが、今戦っている木製の鮫も同様の身体構造をしているかどうかは分からない。だが、今の行き詰った現状を打開するには試す価値ありだな。


「イルナ!」

「な、何?」

「俺が囮になってツリーシャークを地面から引っ張り出すから、その隙をついてヤツの鼻っ面を思いっきりぶん殴ってくれ!」

「は、鼻? なんでまたそんなところを?」

「説明している暇はない! 頼んだぞ!」 


 鼻を撃て、という至極シンプルな指示だけイルナに与えて、俺はツリーシャーク目がけて走り出す。

 木製の背びれが真っ直ぐこちらに向かってきて、五メートルほどまで接近。

ツリーシャークはその巨体を地中から完全に出し、俺を呑み込もうと飛び込んでくる。


「フォルト!?」

「フォルトさん!?」


 ミルフィとマシロの悲鳴が聞こえる。

 ――けど、これは想定内だ。


 俺は寸でのところで回避。

 丸呑みする気満々だったツリーシャークは、空振りしたことで体勢を崩し、地中へ逃れる機を失う。


「今だ!」

「いっけぇ!」


 その隙をついて、イルナが渾身の一撃を放った。


「ゲガァッ!」


 空中で悶え苦しむツリーシャークはそのまま落下して地面に激突。 しばらくは沖に打ち上げられた魚みたいにビチビチと跳ねていたが、やがて動かなくリ、その姿を宝箱へと変化させた。一丁上がりだ。


「成功だな――ん?」


 ツリーシャークのドロップした宝箱――それは、これまでに見たことがない、チェック柄をした宝箱だった。白と黒の組み合わせ……ギンガムチェックって言うんだっけ? 


「チェック柄の宝箱じゃない!」


 興奮気味に宝箱へ近づいたのはイルナだった。


「この柄の宝箱には特有の利点があるのよねぇ」

「チェック柄だとどんな利点があるんだ?」

「開けてみればわかるわよ。ちなみに解錠レベルは【59】ね」


 いつの間にかモノクルを装着してレベルを調べていたイルナ。

 まあまあ高いのな。

 ともかく、その利点とやらを知るため、鍵を使って開けてみる。すると、


「おおっ!? アイテムが二つ入ってるぞ!」


 ひとつの宝箱にふたつのアイテム。

 なるほど、これがチェック柄宝箱特有の利点か。


 しかも、アイテムのうちひとつは《魔法の素》だった。

 色は白。


「無属性魔法のようですね」


 ジェシカがそう教えてくれたが……ふむ。無属性魔法か。

 効果はどんなものだろうか。早速調べてみよう。


「ミルフィ、カタログを」

「はい!」

「さて、この無属性魔法は――」



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アイテム名 【魔法の無属性・Eランク】 

希少度   【★★☆☆☆☆☆☆】

平均相場価格【1万~5万ギール】

詳細    【使用することにより、無属性魔法ヒーリスを取得可能】


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「ヒーリス?」

「回復魔法ですね」


 回復魔法か……これまた戦闘には欠かせない魔法だな。

 問題は誰が覚えるかだが、それは戻ってから決めることにした。

 無属性魔法に関しては、誰でも覚えられるという利点がある一方、このヒーリスの希少度で示された通り、あまり高価ではないのだ。

 希少度はともかく、今の俺たちにとってはありがたい魔法だ。

 さて、もうひとつの宝箱には何が入っているかな?


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アイテム名 【聖女の拳】

希少度   【★★★★★★★★★☆】

解錠レベル 【873】

平均相場価格【600万~800万ドール】 

詳細    【選ばれし聖女の拳をもとにして生まれた武器】


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「「「「なっ!?」」」」


 ここでまさかの【★9】の超高額アイテム。

 しかもナックル・ダスターってことは、


「ね、ねぇ、フォルト……」

「分かっているよ、イルナ。これは君が装備してくれ」

「! あ、ありがとう! 絶対にこの武器を生かしてみせるわ!」


 嬉しそうに装着するイルナ。

 うん。

 やっぱりイルナには拳が似合う。

 ……女子に対して抱く感想じゃないな。



 それからも狩りを続けるが、さすがにツリーシャーク級の強敵は出現せず、アイテムもパッとしなかった。

 内訳は次の通りだ。


 銅の宝箱×1

 青色の宝箱×2

 白色の宝箱×3

 木製の宝箱×1


「うーん……銀の宝箱はなしか」

「まあ、いいんじゃない? 聖女の拳が手に入っただけでも凄いわよ」

「そうそう」

「それに、今回はマシロさんに私たちの仕事場を紹介するという意味もありましたし」

「は、はい! とっても勉強になりました!」


 確かに、それもそうだな。

 マシロには次回から得意の歌唱魔法も披露してもらうことにして、今日は引き上げることにした。

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