第55話 塔のダンジョン

 翌朝。

 俺たちは早朝から拠点を出てフローレンス家を目指して出発した。


 とりあえず、フローレンス伯爵のところまで行けば、あとはバッシュさんにもらった賢者の地図を使って自由に行き来ができる。ホントに便利なアイテムだよなぁ、これ。

 ただ、念のため、貴重なアイテムはすべて収納用ファイルに入れて持ち運ぶことにした。朝一で大量購入してきたから数は問題なし。

あと、留守の間、拠点には空き巣が入らないように《魔除けの護符》というアイテムでしっかりと防衛しておく。


「新しいダンジョン……どんなところかしらね」


 御者を務めるイルナが、荷台に座る俺たちへそう語りかける。


「塔っていうくらいだからな……そこに何か秘密があるんだろう」

「楽しみね♪」

「どんなレアアイテムが出るのか……」

「ああ、ジェシカさん、よだれが……」


 それぞれ想いがあるのだろうが、共通しているのは楽しみにしているということかな。砂のダンジョンの時のように、とんでもないモンスターが潜んでいるかもしれないっていうのに。

 ……まあ、頼もしくはあるけどね。



 移動を開始してから数時間後。

 目的地であるフローレンス家の屋敷へ到着。

 馬車は門を開けてくれた伯爵家の執事さんたちが運んでくれるとのことだったので、俺は早速賢者の地図にこの場所を記録させた。これで、俺たちの家からすぐにこの場へ戻ってくることができる。


「待っておったぞ、活気に溢れし若者たちよ」


 ちょうど地図をしまったタイミングで現れたのが、


「吾輩がリチャード・フローレンスである」


 恰幅の良い体型。

 そして白髪に白鬚。

 髭の方はいわゆるカイゼル髭という形に整えられていて、まさに威厳たっぷりの貴族らしい人物であった。


「砂のダンジョンでの活躍は聞いている。是非とも、君たちにはこちらの塔のダンジョンの攻略にも尽力してもらいたい。成果次第では報酬の増額もあり得る。頑張ってくれたまえ」


 伯爵からの激励の言葉を受け取った俺たちは、すぐさま塔のダンジョンへと向かう。ただ、リカルドさんはまだ伯爵と話があるとのことでその場へ残ることに。エリオットさんも付き添い、ダンジョンへは俺たちとアンヌさんのチームが潜る運びとなった。


 ――ただ、今日は様子見だけだ。

 本腰を入れての攻略は明日からの予定で、まずは塔の全景を確認したり、塔周辺に出るモンスターの実力を知る。それが第一の目標で、集めたデータをもとに作戦会議を行って攻略を始めるという算段だ。


 塔のダンジョンは伯爵の屋敷からも見えるくらい近くにあった。

 なんでこんな近くにあって今まで気づかなかったんだ?


 ともかく、そこでは、砂のダンジョンを調査した時のように、多くの冒険者たちがテントを張って潜るための準備をしている。しかし大規模だな。調査に参加している冒険者の数は砂のダンジョンの調査よりも倍以上はいるぞ。

 これも伯爵自らが指揮を執っている影響か。ここで成果を出せれば、伯爵に直接アピールできるようなものだからな。


 野望にギラつく冒険者たちの視線に晒されながら、俺たちはいよいよ塔のダンジョンへと足を踏み入れる。

 佇まい自体は他のダンジョンとたいして変わらない。パッと見はただのダンジョンだ。しかし、ここから先はいつモンスターが襲ってくるかわからない危険地帯。気を引き締めていかないと。


「では、ここから一旦二手に分かれましょう。塔へは向かわず、あくまでも周辺調査に徹するように」

「分かりました」


 アンヌさんと合流時間を決めて、俺たちは散開して調査を始める。


 ダンジョン内をしばらく真っ直ぐに歩いていると、草原や砂のダンジョン同様に広い空間へと出た――目を見張るのは天井の高さ。


高い。

 めっちゃ高い。

 その理由はすぐにわかった。


「あれが件の塔か……」


 前方およそ五百メートル先。

 小さな川を挟んだ向こう岸にそびえる大きな塔。

 しかし――


「た、高いな」

「え、えぇ……」


 俺とイルナは揃ってその塔を見上げた。


「一体誰が造ったんだろうな」

「ダンジョンでは古代文明を匂わせる文献や壁画が見つかっているところもあるそうだから、そうした文明の忘れ形見ってことかしら」


 ジェシカは心なしか興奮気味に語る。

 古代文明、か。

 そういうの好きそうだもんな、ジェシカって。


「もうちょっと近づいてみようか」

「そうね」


俺とミルフィが揃って歩き出したその瞬間――足元が大きく揺れた。

どうやら、敵のおでましらしい。


「塔を守る番人――いや、番獣ってとこか」


 現れたのは二足歩行する巨大なカブトムシ。

最近、大型種ばっかり相手にしているよな、俺たち。


「キシャーッ!」


 昆虫が叫ぶなよ。


「アイアンビートルね」


 アイアン、ね。たしかに、全身が鉛色をしていて金属感満載だ。

 ともかく、あちらはヤル気満々でこちらに迫ってきているようだし、俺たちも相応の態度で迎え撃たないとな。


「先手必勝だ!」

「任せなさい!」


 まずは切り込み隊長のイルナが突っ込んでいった。

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