第50話 フォルトVSレックス

「おいおい! ミルフィまでいるじゃねぇか! これは願ってもないチャンスだ! しかも……へへへ、おまえの仲間にしておくには勿体ない子たちばかりだな」


 レックスは下卑た笑みを浮かべながら、イルナとジェシカを舐め回すように見つめる。よく見ると、レックスだけじゃない。あの時のパーティーの面々が揃い踏みだ。それどころか、俺とミルフィがいた頃には在籍していなかった新顔まで。


「なんなの、あの下品な男は。視界に入るだけで不愉快だわ」


 不快感を包み隠さず、むしろ前面に押し出しながらイルナが言う。


「気の強い女だな。気に入ったぜ。――こいつを見ても、まだ強気でいられるか?」

 

 強気なレックスは、鞘から剣を引き抜いた。


「! あれは!」


 その派手な装飾の剣……見たことがある。

 確か、カタログに載っていたぞ。


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アイテム名 【宝剣ヴィサス】

希少度   【★★★★☆☆☆☆☆☆】

解錠レベル 【78】

平均相場価格【30万~40万ドール】

詳細    【斬撃の威力が高まる魔石が埋め込まれた剣】


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「…………」

「くくく、どうした? 宝剣ヴィサスを前に臆して声も出ないか?」


 いや、まあ、うん。

 最近ちょっと感覚麻痺しているけど、これでも一般の冒険者からすれば結構なお宝なんだよな。


「痛い目に遭いたくないなら、その女を――いや、おまえの周りにいる女を全員こっちへ寄越せ。全員まとめて可愛がってやる」

「!」

「レックス、あなたは……」


 俺とミルフィの怒りは頂点に達する。


「おら、さっさとしろ。俺たちは――」

「……黙れ」

「ああ?」


 相手がその気なら、こっちもそれに乗ってやる。

 鞘から龍声剣を抜き、構えた。


「ぶはっ! おまえ俺とやる気かよ!」


 俺が剣を手にした直後、レックスやその取り巻き連中から笑い声が漏れた。

 連中からすれば、俺は死人も同然。

 ――けど、今は違う。


「…………」


 笑い声が飛び交う中、俺は龍声剣へ魔力を注ぐ。

 次の瞬間、強力な魔力の渦が発生する。


「!? な、なんだ!?」


 こちらの異変に気づいたレックスが、焦りの声を漏らす。そして、その視線は俺の剣へと向けられた。


「や、ヤツが持っている剣はなんなんだ!?」

「み、見たことがありません!」

「ですが、あの爆発的な魔力はあの剣から生み出されているようです!」

「んなこたぁ分かるんだよ!」


 正体不明の武器を前にうろたえるレックスたち。

 その辺の対応力の低さは相変わらずか。


「レックス、あんたが俺の仲間を奪おうというなら、俺はそれから守るために戦う。あんたも戦うことを望んでいたようだし……勝負するか?」

「ぐっ!?」


 さすがのレックスも気づいているか。

 このまま、まともにぶつかり合ったら、自分たちがどうなるかを。


 すると、ここでレックスは意外な反撃に出る。


「お、おまえら! 俺たちのバックに誰だがいると思っていやがる!」


 どうやら、俺たちと別れた後、どこかのパーティーの傘下にでも入ったらしい。


「さあ? みんなは知っているか?」

「存じ上げませんね」

「知らないわね」

「知りたくもないわね!」


 最後のイルナが気持ちいくらいバッサリと斬り捨ててくれた。


「こ、このっ!」

「観念しろ、レックス」

「うるせぇ! 覚えていやがれ! 近いうちに吠えづらかかせてやるからな!」


 お手本のような負け犬の遠吠えを終えた直後、懐に忍ばせておいた煙幕弾を地面へ叩きつける。

 

「ちょっ! 待ちなさい!」


 イルナは追いかけようとしたが、俺はそれを止める。

 あんなヤツらにこれ以上構ってはいられない。

 それよりも、追われていたこの子のことが気がかりだ。


「さあ、もう平気だぞ」


 俺がしゃがみ込む女の子へ手を指し伸ばすと、


「あ、ありがとうございま――」


 極度の緊張状態から解放されたせいか、少女は気を失ってしまった。

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