第49話 賛同

 俺はバッシュさんの考えに賛同した。

 今のところ、王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーになる予定はないけど、困っている人を助けたいという気持ちは共感できる。

 それを伝えると、


「こいつも何かの縁だ。持っていきな」


 机の引き出しから取り出した物を、バッシュさんは俺に手渡す。

 これは……地図?


「こいつは知り合いの冒険者から譲ってもらった《賢者の地図》だ。この地図を広げて『チェック』と唱えると、地図を持った者の現在地が赤い点として記録される」

「記録?」

「そうだ。もう一度、その場を訪れたいと思ったら、地図を広げ、赤い点に指を置き、『ジャンプ』と唱えれば、その場所へ瞬時に移動することができる」


 何それ!

 めちゃくちゃ便利な道具じゃないか。


「い、いいんですか!?」

「遠慮するな。俺よりあんたの方が有効利用してくれるだろう。あと、その鍵について何か重要なことがわかったらおまえたちが贔屓にしているギルドにメッセージを残しておく。そしたら、それを使ってここへ来るといい」 

「分かりました! ありがとうございます!」

「いいってことよ」


 俺とバッシュは握手を交わす。

 同じ目的を持った解錠士アンロッカーに出会えて、本当によかった。



賢者の地図にバッシュさんの屋敷を記録させ、俺たちは馬車でクロナの街へと戻った。


「これに俺たちの拠点地を記録させておけば、どんなに遠くまで行っても一瞬で帰って来られるから便利だな。逆に、遠くの街へもすぐ飛んでいける」

「移動時間やそれに伴って生じる経費を考慮したら、かなり節約になりますよ」

「ホントね!」

「バッシュさんには感謝しなくちゃ」


 みんなも同じように賛同してくれた。

 同じ目的を共有する解錠士アンロッカーのバッシュさんという仲間を得て、俺たちは意気揚々と家へと戻ったのだった。

 ――その道中、


「うん?」

 

 前方からこちらへ走ってくる人がいる。

 女の子だ。

 年齢は十歳前後。

長く伸びた白い髪をなびかせながら、必死の形相で走っている。目を引かれたのは女の子の瞳の色。なんと、左右で色が違うのだ。右は青色で左は灰色――オッドアイってヤツか。


 その子は俺たちの手前十数メートル先で、


「あっ!」


 盛大にズッコケた。

 かなり勢いのついた状態でコケたから怪我をしているかも。


「だ、大丈夫か?」


 俺が声をかけ、全員が駆け寄ったとほぼ同じタイミングで、


「いたぞ!」


 さらに後方からこちらへ駆けてくる三人の男たち。

 黒服に強面。

 目当ては転んだ女の子のようだが……どの角度から見たって、この子の友だちって感じじゃないな。


「追いかけっこはここまでだ。さあ、こっちへ来い」

「いやっ! 放して! 私はもうあそこへは帰りたくないの!」


 乱暴に腕を掴まれた少女は必死の抵抗。

……さすがに、このまま黙ってみているわけにはいかない。


「おい、女の子ひとり相手にそのやり方はないだろ」

「なんだぁ、てめぇは。関係ねぇヤツは引っ込んでろ!」


 三人組のうちの一人が殴りかかってきた。俺は咄嗟に男の拳を自分の手のひらで受け止めると、力強く掴む。砂漠のダンジョンでアサルトスコーピオンってバケモノと戦ったせいもあってか、以前だったらおっかなく感じたチンピラも、今は何ともなく思える。


「こ、この野郎っ!?」


 男は俺の手を振り払うと、その勢いのまま殴りかかってきた。

今までの俺ならビビッて及び腰になっていただろうが、「当たったところで死にはしない」という、これまでにない安堵感があって、あっさりと見極められた。モンスターとの戦闘でだいぶ鍛え上げられているようだな。

 

「ふざけやがって!」


 今度は別の男が殴りかかってきたが、これもかわして手首を掴んだ。


「い、いてぇ!?」


 男はたまらず悲鳴をあげた。

 それを聞き、俺は掴んでいた手を放す。

 反動で、男は尻餅をついて倒れてしまった。

 それを見た残りふたりは及び腰になっているが、


「何してやがる!」


 背後からさらに怒鳴り声。

 増援かと思ってそちらへ顔を向けると――意外な人物が立っていた。


「レ、レックス……?」

「あ? て、てめぇ、生きていたのか、フォルト」


 俺をダンジョンへ置き去りにしたレックスだった。

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