第45話 快進撃

「緑って、価値的にはどうなんだっけ?」

「黄色以上赤未満ですね」

 

 ジェシカの解説を聞く限り、あまり中身には期待が持てそうにないな。まだ意識が完全回復しきっていないイルナに代わり、ミルフィがカタログで解錠レベルを調べる。


「解錠レベルは【17】ね」


 ……思ったより高くないな。

 厄介な敵だったし、少なくとも【50】はあると思ったが。

 でも、聖樹の根の件もあるし、最後まで希望を捨てちゃいけない。


「さて、じゃあ早速開けてみるか」


 いつもように鍵を使って開けてみる。

 その中身は特大のキャベツが三つ。


「これで食費が浮きますね!」


 喜ぶジェシカ。

 正直、俺としてはがっかりだったが、生活費を浮かせられるという点については素直に喜ぶべきかな。


 さて、ドロップしたアイテムは竜の瞳を使って地上へと戻り、保管しておくのだが、今回からはイルナが用意してくれたニューアイテムのおかげでその手間が省ける。


「早速、そのキャベツを《ファイル》にしまっておこう」

「了解よ」


 意識が戻ったイルナが取り出したのは、青色のファイル。

 一見すると、なんの変哲もないファイルだが、これがとんだ優れもの。なんと、宝箱からドロップしたアイテムをこの中に保管しておくことができるのだ。 

 アイテムマニアのジェシカ曰く、こいつは安物で、上限は十個と少ないが、いいものになると百以上もこの中に保管できるらしい。


 でも、今の俺たちには十で問題ない。

 数も質も、これからどんどん上げていけばいいんだしな。


「これでよし、と」


 アイテム(キャベツ三つ)を収納し、ファイルと閉じると、


「「わあああああっ!」」


 遠くからふたりの男の叫び声。見ると、聖窟に入る前に俺たちパーティーを小馬鹿にしていたあのふたり組の冒険者が、何かから逃げているようだ。

その正体は、


「!? タ、タコ!?」


 体長五メートルはゆうに超える超巨大な砂色をしたタコだった。


「デザートオクトパス! こんな大物までいるなんて!」


 イルナは驚き、すぐさま拳を構える。


「デザートオクトパスか……初めて見るな」


 一方、俺はあまり恐怖を感じなかった。

 初見こそ驚いたが、正直、昨日戦ったアサルトスコーピオンの方が対峙した時に嫌な感じがした。


「イルナ、あいつと昨日のアサルトスコーピオンって、どっちの方が強いんだ?」

「えっ? ああ、えっと……確か、アサルトスコーピオンの方が討伐難易度高かったはずよ」

「じゃあ、問題なく倒せるな。――戦闘開始だ!」


 俺の号令で、全員が戦闘態勢を取る。


「フォルト! ここは私が先陣を切るわ!」


 闘志むき出しのイルナ。

そのヤル気を買って、まず任せてみることにしよう。


「よし、俺が援護するから、派手にぶちかましてこい!」


 俺がGOサインを出した直後、イルナはデザートオクトパスへと立ち向かう。


「でやぁっ!」


 その巨大な足を、俺は風属性の魔法で切り刻んでいく。

 それにより、向かってくるイルナを狙っていたデザートオクトパスの動きは鈍くなり、大きな隙ができた。


「今だ!」

「任せて!」


 魔力を込めたナックル・ダスターでの一撃。

 デザートオクトパスの体は、その衝撃で大きくゆがむ。


 しかし……イルナは凄いな。

 足元が砂地なのでうまく身動きが取れないというハンディがあるはずなのに、それを微塵も感じさせない動きだ。

 遠目から見ていても安心できる戦いぶりと言える。

 昨日のアサルトスコーピオンとの戦いが影響しているのかな。


 ――でも、あんな動きを見せられたら、


「俺も負けていられないな」


 イルナの頑張りを目の当たりにして、リーダーとなった俺がこのままっていうわけにもいかない。


「次はこいつで黒焦げだ」


 属性を【炎】系にチェンジ。

――の、はずが、どうも威力がおかしい。炎の勢いがいつにもまして激しいのだ。

 ……もしかして、この前の【封印の鍵】を使ったことが原因か? ていうか、それくらいしか思い当たる節はない。


 ――て、考えるのはあとだ。


「くらえっ!」


 炎を食らって弱ったデザートオクトパスにトドメの斬撃を食らわせる。辺りにはタコを焼いたいい匂いが。このデカさ……何人分の食料にできるかな。食べる気はしないけど。

 

 そしてドロップする宝箱。


「おおっ! 銀色の宝箱!」

「しかもサイズも大きめですよ!」


 なかなかの収穫にご満悦の俺たち。

 それを回収していると、


「お、おまえら……本当に強かったんだな」


 腰を抜かしたふたりの冒険者たちが、口をあんぐりと開けながらそう言った。対して、俺は、

 

「まあね」


 と、軽く答える。

 それから、そのふたりには高速土下座でお礼と謝罪の言葉を何十回と聞かされるハメになったのだった。

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