第42話 三つ巴
「「「…………」」」
三人の空気はなんとも言えない感じだった。
一応、表情は笑顔なんだけど……なんだかちょっと近寄りづらいような。
「今そこへ行くのは得策ではないぞ」
たまらず足が止まった俺に声をかけてくれたのは、霧の旅団二番隊隊長のエリオットさんだった。
「エ、エリオットさん?」
「しばし静観することを勧める。……まあ、あのミルフィという子も悪い子ではないようだから、もう少し時間を置けば――」
「あ、フォルト!」
エリオットさんの声を遮断するように、イルナが俺の名前を呼ぶ。
「今ちょうどフォルトのことを話していたの!」
「そうなんですよ♪」
「ねぇ、フォルト、ちょっとこっちへ来てくれないかしら」
テンションが異様に高いイルナとジェシカ。そして、静かながらもどこか迫力のあるミルフィ。
俺はどうするべきか……エリオットさんへ視線を送ると、
「……安心しろ」
「えっ?」
「骨は残さず拾うし、墓も立てる」
「ちょっ!?」
匙を投げられた。
ていうか、大袈裟じゃないかな。
「フォルト、早く」
「あ、う、うん。今行くよ」
拒否権はなさそう――ていうか、本来は俺もいろいろと話をしたかったから、まざるのは自然の流れなのだが……さっきのイルナの声、あれはなんというか、不穏なオーラをまとっていた。
ともかく、三人の間に何かあったなら、俺が橋渡し役をしないとな。
と、いうわけで、俺は残されている一席へ腰を下ろす。
配置としては正面にイルナ。左隣にジェシカ。右隣にミルフィだ。
「実は今ちょっと話をしていたの」
そう切り出したのはイルナだった。
話って……ああ、きっと、ミルフィのもとを去ってから今日に至るまでのことを報告してい――
「私とフォルトは一緒にお風呂へ入る仲なのよ? ね?」
「…………」
全然違った。
ていうか……それってもしかして、
「風呂って……共同浴場のことか?」
「!? バ、バカ!」
「共同浴場?」
直後、ミルフィの瞳がギラリと光る。
「ふーん……そういうことね」
「ぐぐっ……で、でも、一緒にお風呂入ったことは確かよ!」
「それなら私はフォルトとふたりきりでお風呂に入ったことがあるわ!」
「ふたりきり!?」
衝撃を受けているイルナ。――だけど、それもちょっと情報に誤りがある気がする。
「確かに入ったことはあるけど、それはまだ小さかった時でしょ?」
「! ダ、ダメ、フォルト!」
「はーん……そういうことね!」
一転して攻勢に出るイルナ。
その後も、「俺とこんなことをした」ということで熱く張り合うふたり。
一方、ふたりの攻防を静かに見守っていたのはジェシカだ。
「だ、大丈夫か、ジェシカ」
「えっ? 何も問題ないですよ? おふたりのお話は楽しいですし」
ジェシカは余裕だった。
ふたりとは対照的に、のんびりとカップに入ったスープに口をつける。
「それにしても、フォルトさんは愛されていますね」
「愛っ!? ……い、いや、それは……」
「まあ、私はつい先日、体を通り越して心の奥底までじっくりと見られてしまっているので関係はありませんが」
「「!?」」
勝ち誇ったように語るジェシカ。
同時に、驚愕の表情で振り返るイルナとミルフィ。
心の奥底っていうのはつまり、
「どういうことなの、フォルト……」
ミルフィの瞳から光が消えた。
「ちゃんと説明してもらおうかしら?」
イルナの顔が引きつっている。
そしてジリジリと迫るふたり。
情報を正す時間さえ与えられそうになかった。
……こんなんで大丈夫なのか……ちょっと心配になってきたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます