第39話 フォルトとミルフィ
グレイスさんからもたらされたミルフィの情報。
どうやら、霧の旅団のメンバーで、現在は別行動を取っているアンヌさんと合流してこの街へと来たようだが、現在はそのアンヌさんは迷子になってしまったのだとか。
なんでも、リーダーであるリカルドさんが重傷を負ったという情報を聞きつけて急遽戻って来たらしいのだが、「早く会いたい」という思いが暴発して捜し回っているらしく、その途中ではぐれてしまったという。
俺は居ても立ってもいられず、ベッドから起き上がった。
「だ、大丈夫なの、フォルト」
「まだ休んでいた方が……」
心配そうに言うイルナとジェシカ。
霧の旅団は有名だから、黙っていてもいずれミルフィはここへたどり着くだろう。
……それに、まだ体調は万全と言い難い。少し目眩もするし、足がおぼつかない。それでも、このまま眠っているわけにはいかなかった。
ベッド脇に立てかけられた龍声剣を装備し、俺はテントを出る。
「そんなに気になる子なのかい?」
グレイスさんからの質問に、俺はすぐさま返答する。
「とても大切な子なんです」
それだけ告げて、俺は街へと向かって走りだした。
◇◇◇
ミルフィを捜して街中をさまよい歩くも、手掛かりすら掴めない状況だった。
あの時は「ミルフィが俺を捜している」という情報が先行して飛び出したんだけど……単純にレックスからの命令でそうしている可能性の方が高いんだよな。
だって、ミルフィはレックスの――
「……いや、考えるのはよそう」
とにかく今は会いたい。
会って話がしたい。
ダンジョンではずっと会えなくなるなんて想定していなかったから、ろくに別れの挨拶もできなかったし。
……もし、さっき推測したように、レックスからの命令を受けて俺を連れ戻そうということなら、その時は――キッパリと断ろう。
――逆に、ミルフィを霧の旅団へ入れることはできないかな?
もちろんリカルドさんに相談するけど……
そんなことを考えている時だった。
「!?」
人込みの中に、金色の髪をした女の子の後姿を発見する。
見間違えるものか。
あれは絶対に――
「ミルフィ!」
思わず叫ぶが、その女の子は止まらない。
街の喧騒が、俺の必死の訴えをかき消していたのだ。
「待ってくれ、ミルフィ!」
必死に呼び止めるが、声は届かず。
人波をかき分けながら進んでいるため、距離は縮まらず、それどころかどんどん遠ざかっていった。
「くそっ!」
ようやく人混みを抜け出した時には、すでにミルフィを見失っていた。
「はあ、はあ、はあ……」
荒れた呼吸を整えつつ、俺は辺りを見回す。
ここは街の中心から外れた場所。
人通りは少ないが、街のシンボルとなっている大きな時計台があって周辺には憩いの場として利用される公園がある。
のんびりとした周囲の空気もあってか、荒れていた呼吸も徐々に収まり、頭も冷静になってきた。
「ミルフィ……」
せっかくの再会のチャンスを逃し、力なく呟いて項垂れる。
すると――
「フォルト!」
背後から聞こえたそれは間違いなく、俺が捜し求めていた人物のものだった。
しかも、その声は俺の名前を叫んでいる。
振り返った俺の目の前には――もう二度と会えないとさえ思っていたミルフィの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます