第35話 リカルドを救え!
本日は19:00にもう1話投稿予定!
周囲は騒然となった。
無理もない。
Sランクパーティーである霧の旅団のリーダーことリカルドさんが、これほどまでに重傷を負っているのだ。
それはつまり、あのダンジョンには……とんでもない大物モンスターが潜んでいることを意味していた。
「パパ!」
「大丈夫ですか、リカルドさん!」
慌てて駆け寄るイルナと俺。ジェシカはリカルドさんと面識はないものの、イルナがパパと叫んだことで関係性を理解し、俺たちから少し遅れてやってきた。
さらに、その後からワルドさんも到着。
「め、面目ない……」
「しゃべっちゃダメ!」
「そうですよ!」
言葉少なに謝罪するリカルドさん。
イルナの姿を捕らえると起き上がろうとだが、安静にしておくように促し、治癒魔法の担当者による治療を受けることに。
……こんな時、ミルフィがいてくれたら……ミルフィの回復魔法は強力だ。あれくらいの傷ならすぐに完治させることができるだろう。
今のリカルドさんは、まるでレックスたちに置き去りとされた後の俺のように――って、そうだ!
「待ってくれ!」
俺は治療している人たちの間に割って入る。
「俺の持つ天使の息吹なら、すぐに回復させられる!」
そう言って、リカルドさんの首に天使の息吹をかける。
すると、みるみる傷が回復していき、顔色もよくなってきた。
「おお!」
「こ、これが、天使の息吹の力か……」
「初めて見た……噂通り、一瞬で回復するとは」
天使の息吹の効果に、誰もが驚愕していた。
その後、リカルドさんは意識こそ戻らないが、呼吸も安定し、血色もよくなっていることから、もっと静かな場所で体を休めようと、医療用テントへ運ばれることとなった。
俺が天使の息吹を装着し直していると、何やら話し合う声が聞こえる。
「しかし、リカルドほどの実力者がここまでの重傷を負うとは……こりゃあ、ここのダンジョンの調査は一旦中止するしかないか」
ここにきて、俺は初めての周囲にいる大人たちの存在に気づく。
年齢や性別はバラバラ。
初老の男性から若い女性まで。
中には王族関係者もいるだろう。
それってつまり、当分はここのダンジョンに潜れないってことか。
「……残念ですが、仕方がないですね。あの霧の旅団の手に負えないほどとは……」
ジェシカは冷静な意見を述べる。
その時だった。
「待ってください!」
重苦しいムードが漂う中、ひとりの――俺たちとそう年が変わらないと思われる少年が大声で叫んだ。
「リカルドさんのケガは俺のせいなんです!」
「? どういうことだ?」
ワルドさんの問いかけに、その少年は声を震わせながら答える。
「お、俺はロイって者です。実は――」
ロイと名乗った彼は、霧の旅団と同じように新ダンジョンの調査を依頼された某パーティーのメンバーであった。
彼が語ったダンジョン内の出来事の全容は次の通り。
まず、ダンジョンの足元は見渡す限りすべて砂で覆われていた。つまり、ここのダンジョン内も砂漠と同じような状態だったという。それから周辺調査のため、潜入したパーティーは二手に分かれて進んだのだが、そのうちのひとつが巨大モンスターに遭遇したらしい。
「お、俺はまだ駆け出しの冒険者で、まだまだ分からないことだらけだったけど、リカルドさんはそんな俺に、パーティーが違うにも関わらず優しく励ましてくれた。……それがまさかあんなことになるなんて」
ようは、ロイを巨大モンスターから守るためにリカルドさんは負傷したということらしい。
涙ぐむロイに代わりに、彼が所属するパーティーのリーダーが話を続ける。
「図体こそデカいが、リカルドがいつもの通りに戦えていたら問題なく勝てていた。だから、他のヤツにだって、あのモンスターを倒せる可能性はある……」
そう訴えるが、どのパーティーのメンバーも露骨に目を逸らす。
たとえそうだったとしても、やはり「あのリカルドが勝てなかった」という事実が他の冒険者たちには重くのしかかっているようだ。
賢明な判断と言えるが、それだとこのダンジョンの攻略がだいぶ遅れてしまう。
俺はイルナたちに視線を送る。
「…………」
イルナは俺の送った視線の意図をすぐに読み取り、静かに頷いた。
それを確認してから、
「ワルドさん、俺たちが行きます」
「何っ!?」
俺たちの立候補に、ワルドさんは心底驚いたような声をあげる。他の冒険者からは「命知らずな連中だ」と呟かれたりもしたが、それを遮るように俺たちの挑戦を肯定的に捉えてくれる人が現れた。
それは、意外な人物だった。
「勇気ある決断だ。私も同行しよう」
共同浴場で出会った、冒険者パーティー・《月影》のリーダーである女性冒険者のグレイスさんだった。
どうやら、月影も調査チームに選抜されていたらしい。
「俺も行くぜ!」
さらに、浴場で会ったグレイスさんの仲間のスコットさんも名乗りをあげる。
「君はさっきの戦闘で負傷しているだろう? もう少し寝ていた方がいいのでは?」
「問題ねぇっすよ、姐さん!」
その勢いは誰にも止められそうにない。
グレイスは呆れ気味に「好きにしろ」とだけ伝えた。
「先ほど、別の冒険者からモンスターの特徴を聞いたが、恐らく、彼らを襲ったのはアサルトスコーピオンというモンスターだろう」
アサルトスコーピオン……物騒に物騒を掛け合わせて一層危険な感じに仕上げてみましたっていうシンプルな名前だが、油断はできない。
――ここで、さらなる参戦希望者が声をあげた。
「私も行きます!」
ジェシカだった。
「ジェシカ!? で、でも……」
「危険は百も承知です。微力ながら、モンスター討伐のお手伝いをさせてください」
静かな口調だったが、その眼差しはとても力強く、真っ直ぐ俺を射抜いた。
……何を言っても退きそうにないな、これは。
こうして、再突入メンバーは全員揃った。
「よし、行こう――砂のダンジョンへ」
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