第34話 緊急事態

※明日は昼と夜の2回投稿になります!




 ワルドさんから非常事態の一報を受け取った俺たち。

 中でも、イルナの行動は速かった。


 ――というか、速すぎだ。


 状況説明を最後まで聞かず、勢いのままに廃宿屋を飛び出していった。


「イルナ!?」

「ど、どうしましょう、フォルトさん!」

「……このまま放っておけない。行ってきます」

「おう! 霧の旅団がいるのは、西にある新ダンジョンだ! たぶん、イルナも走っていた方角的にそちらを目指しているようだ!」

「ありがとうございます!」

「俺はフラン婆さんに報告してくる! それが終わり次第すぐに合流するからな!」

「分かりました!」


 霧の旅団の現在地を聞いた俺とジェシカは、イルナのあとを追って走りだした。


  ◇◇◇


「こんなところにあったなんて」


 廃宿屋から西へ数キロ地点。

 ここへは初めて来たが、その衝撃的な光景に俺は呆然とした。


「なんだよ、ここは……まるで砂漠じゃないか」


 見渡す限りの砂地が広がるそこは、申し訳程度に生えた枯れ木を除くと砂しかない広大な砂漠地帯。

先行していたイルナと合流し、そこを歩いていると、テント群が見えてきた。


「どうやらあそこが新しいダンジョンの入口みたいですね」


 テント群を見たジェシカが言う。


「あのテントの数……ひょっとして、全部依頼された冒険者たちか?」

「いえ、そういうわけではないと思います」

「? どういうことだ?」

「調査の結果、発見された新ダンジョンが正式に解放されることとなったら、すぐに潜ろうと待ち構えている人たちです」

「えぇ……もう並んでいるのか」


 なんというか、一番乗りに対して凄い執念だな。

 と、そこへ、


「あなたが霧の旅団のフォルトさんですか?」


 いきなり凄い美人が話しかけてきた。

 どう見ても冒険者って感じがしないその人はペトラと名乗った。なんと、ワルドさんの秘書をしている女性だと言う。


「こちらへどうぞ」


 秘書のペトラさんに案内され、俺たちはテントの群れの中を突き進んでいく。そのたびに、


「おい、あいつら何者だ?」

「ひょっとして、ダンジョンの調査を依頼されている選抜パーティーか?」

「嘘だろ?」

「全然そんな風には見えないぞ?」


 待機している冒険者たちの間で、俺たちの話題が弾丸のように突き抜けていく。

 ……まあ、いいけどさ。

 テント群の先には、ダンジョンの周辺を囲む仕切りが設置されていた。他の冒険者を中にいれないための対策だろう。


 その仕切りには、中へ入るための扉が設置されており、そこは自警団の屈強な男たちによって守られている。ペトラさんと一緒にいたため、特に怪しまれることなく中へ。すると、まず目に入ったのは巨大な石がいくつも積み重なった遺跡のような物体だった。


「ここが入口か……」

「随分と雑に積み重ねられた石ね」

「ちょっとの衝撃でも崩れそうです」

「それを防ぐための補強工事を同時進行しています」


 なるほどね。

 ……って、あれ?

 俺たちは緊急事態ってことで来たはずなんだけど……

 リカルドさんたちを捜して周囲を見回していた、まさにその時、


「おい! 誰か手を貸してくれ!」


 怒号にも似た叫び声がした。

慌ててそちらの方へ目を向けると、何名かの冒険者が治療を受けている真っ最中であった。

その中でも特にひどく、意識を失くして医療用の小さなベッドに寝かされていた人物こそ、


「パパ!」


 イルナの父親で霧の旅団リーダーのリカルドさんだった。

 ……一体、このダンジョンで何が起きたっていうんだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る