第33話 あと少し【ミルフィSide】

 フォルトのいる霧の旅団が新たな拠点地として選んだゾルダン地方。

 

 そこを目指して旅を続けるミルフィとアンヌ。

 いろいろと寄り道をする羽目になったが、ようやくすぐそこまで迫る位置までたどり着いた。


 しかし、時刻はすでに夕方。

ふたりはゾルダン到着を翌日にして、今日は一泊しようと立ち寄った村の宿屋へと入っていった。

その宿屋はバーが併設されており、酒好きだというアンヌはそこで一杯飲むから付き合ってくれとミルフィにお願いをする。

 ミルフィはまだ酒が飲める年齢ではないため、ジュースを飲みながら冒険者談義に花を咲かせようということになったのだが――



「なぁんでよぉ!」


 

 グラス一杯のアルコールで、アンヌは完全に出来上がっていた。


「あ、あの、アンヌさん?」

「んあ~?」

「もうその辺でお酒は……」

「…………」

「? アンヌさん?」

「ふぇ……」

「!?」


 今にも泣き出しそうなアンヌ。

 酒が入るととても面倒臭い感じに仕上がるらしい。

 アンヌはバーテンダーも兼ねている宿の主人から水をもらうと、今度はジッとミルフィを見つめた。


「な、なんですか?」

「……近いわね」

「ち、近い? 何がですか?」

「ねぇ、ミルフィ!」


 急に肩をガシッと掴まれ、真顔で迫られる。

 その気迫に、ミルフィはちょっと退いた。


「あのね、真剣に答えてもらいたいんだけど……」

「は、はい」

「もし――母親が私くらいの年齢だったらどう?」

「……はい?」


 あまりにも予想外すぎる質問に、思わず脱力するミルフィ。


「ど、どういう質問なんですか……?」

「いや、その……ほら、前にリーダーの娘の話をしたでしょ?」

「……フォルトを気に入っているというイルナさんでしたっけ?」


 一瞬、ミルフィの瞳から光が消え失せたが、今はそれよりもアンヌの質問の意図を知るためなかったことに。


「そうなの。イルナとあなたは年も近そうだから、どうかなって」

「……ごめんなさい。私もフォルトも孤児院出身なので、両親という存在がどういったものなのか、一般的な感覚では答えられないと思います」

「あっ、ご、ごめんなさい」

「いえ、逆にまったく知らない分、私としては後腐れがないというか……」

 

 ミルフィもフォルトも両親の顔も声も名前さえ知らない。自分たちの名前は孤児院だった教会の人たちがつけてくれた名だし、自分たちと同じような境遇の子どもたちと共に過ごしたので、別段寂しくもなかった。


 ミルフィは今さら両親に会いたいとは思っていない。

 だけど、フォルトは違う。

 フォルトだけは、離れ離れになりたくなかった。


「――って、なんでそんな質問を?」

「……実は私、リーダーとは恋仲で……」

「ああ、なるほど。……えぇっ!?」


 それが意味するところとは、つまり、


「将来的には結婚したいと思っていて……そうなると、イルナは私の義理の娘ということになるわけで……」


 アンヌは獣人族のため、年齢的には周りよりもだいぶ上だ。

 しかし、その容姿はどう見ても二十代前半。

 イルナの顔を知らないミルフィだが、自分と同年代ということは、どう見ても姉妹に思われるだろう。

 それでアンヌは心配していたというわけだ。


 どうフォローしたものかと悩むミルフィたちの隣の席に、屈強なふたりの若者がやってきた。その身なりから、恐らく同業者だと思われる。

 男たちは席に着くなり大声で話し始める。


「しっかし、驚いたよな」

「ああ、まさかあんな事態になるなんて思いもしなかったよ」


 どうやら今日の成果について話しているらしい――と、思っていたが、実際はまったく違っていた。


「あの霧の旅団のリーダーが瀕死の重傷を負うなんてなぁ」

「「!?」」


 男が話を終えた直後、アンヌは目にもとまらぬスピードで男たちの席へ移動する。ミルフィは完全に置いていかれた。

 

「今の話……もっと詳しく聞かせて頂戴」


 そう言ったアンヌの目は充血して真っ赤だった。

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