第26話 新拠点地は幽霊屋敷?
翌日。
約束通り、ジェシカが宿屋にやってきた。
その出で立ちはカーキー色のパーカーにハーフパンツ……なるほど、これが普段通りのジェシカってわけか。
俺たちはダンジョン修行を一時休戦し、ジェシカの案内で霧の旅団の新しい拠点地になるかもしれない場所へ向かった。
そこで俺たちが見た物は――
「「おおぉ……」」
思わず、俺とイルナは同じリアクションを取ってしまう。それほど、想像を絶する大きさの家だった。
しかし、よく見ると、玄関部分にくっつけられた看板にはベッドのマークが彫られている。
つまり、ここは、
「ひょっとして、元宿屋か?」
「そうなんです。店主が高齢となり、やむなく店じまいをしたのだとか」
「それにしてはかなり綺麗だね。外観からは傷んでいる部分が見られない……まるで新築じゃないか」
「改装したばかりだそうですよ? だから、お婆様も解体するには勿体ないとこうして残しておいたみたいです。とはいえ、中はどうなっているか分かりませんが」
「なるほど。宿屋なら部屋も多いだろうし、広さも申し分ないね」
俺はこの家を一目見るなり気に入った。
問題は……
「…………」
汗だくで目が泳ぎまくっているイルナだ。
「と、とりあえず、中に入ってもう少し様子を見てみよう」
「分かりました。では参りましょう」
「えっ!? は、入るの!?」
ぐったりしているイルナを挟むようにして、俺たちは家の前までやってくる。
そこで俺は例の鍵を使用。
思った通り、あっさりと鍵は開いた。
「本当に便利ですね」
「大助かりだよ」
そんなふたりのやりとりを背中で聞きつつ、中へと入る。
外観は綺麗だったが、中は思ったより荒れていた。
しかも、全カーテンを閉じていることもあって、真昼だというのにロビーの脇にある廊下は一番先まで見えないくらい真っ暗になっている。
「この辺はさすがに光を取り込めばだいぶマシになるのだろうけど……なんというか、不気味だな」
幽霊は信じていないが、この雰囲気は好ましくない。
さっきまでなんともなかったジェシカでさえ、少し表情が引きつっていた。
気持ちを切り替え、辺りをよく見まわしてみる。
すると、ロビー近辺は目立って荒れていたが、それ以外は比較的まともだった。
床も健在で、壁にも穴は開いていない。
ただ、フロントの脇にある階段は、ハッキリ言って足をかけるのをためらうくらい痛んでいた。ここは要改装だろう。
「あとはもうちょっと奥を見て――」
俺が廊下の方をのぞき込むと、
ガタッ!
「「「!?」」」
廊下の奥から物音がした。
カーテンが揺れたとか、そんな生易しい音じゃない。明らかに何者かの存在を証明する音だった。
「ね、ねぇ」
「……分かってる」
俺は龍声剣を構え、イルナは拳を握る。
それからしばらくの間、臨戦態勢をとっていたのだが、特にこれといって怪現象が起きるわけでもなく、俺たちは旧宿屋探索を続行。――だが、やっぱり怪しいところは確認できなかった。
結局、その他はなんの収穫もなし。
でも、ここが改装次第でとても住みやすそうな場所であることは分かった。
それにしても……この幽霊騒動、なんだか裏がありそうだな。
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