第24話 スキル判定

「本当に……あなたたちにはなんてお礼を言ったらいいか」


 引きこもっていたジェシカの心にかけられていた重厚な鍵をこじ開け、部屋からも引っ張り出すことに成功した俺は、フラン婆さんから感謝の言葉を贈られた。


 しかも、ただ部屋から出しただけじゃなく、ジェシカは両親が亡くなる以前の明るくて活発な性格へと戻っていた。


「ごめんなさい、お婆様……心配をかけて」

「いいのよ。こうして戻ってきてくれたんだから」


 うんうん。

 これにて一件落着って感じだ。



 さて、問題はここから。

 俺のスキル判定についてだ。


「噂に名高い霧の旅団のリーダーから直々に依頼を受けているからねぇ。さあ、こっちへおいで」


 フランさんはそう言って、俺を小さなテーブルの前に呼ぶ。青いクロスの上には、大きな水晶玉が置かれていた。


「これであなたのスキルを判定します。さあ、魔力を込めて」

「は、はい」


 初めてのスキル判定……なんだか緊張してきたな。

 

「ほら、頑張ってきなさいよ」


 イルナに背中を叩かれて、俺は覚悟を決めた。

 水晶に手をかざし、魔力を注ぎ込む。

いつも鍵を使う時にやっているのと同じ要領だ。


 しばらくすると、水晶を見つめていたフランさんがポツリと呟く。


「これは……驚いたねぇ……」

「えっ? 驚いたって……な、何かあったんですか?」

 

 都合の悪い結果でもあったのか。 

 不安に陥っていると、


「安心しなさい。あなたの持つスキルは解錠スキルで間違いない――けど」

「「「けど?」」」


 俺だけじゃなく、イルナやジェシカも気になっているらしく、三人の声がピタリと揃った。フランさんはそれに驚きつつも、優しげな声で解説をしてくれた。


「問題はあなたが開けられる宝箱の上限――つまり、解錠可能レベルね」

「それならかなり高いんじゃないかしら?」

「まあ、そうだね。この龍声剣とか【900】以上だったし」

「龍声剣!?」


 突然響き渡った声は、ついさっきまで引きこもっていたジェシカだった。


「よ、よく見せてもらっていいですか?」

「あ、ああ」

「はわぁ~……」


 つい数分前まで抜け殻みたいだったのに、龍声剣を眺める表情はまさに恍惚といった感じ……まるで別人だな。


「すまないねぇ。この子はアイテムマニアなのよ」


 俺とイルナが呆気に取られていると、フランさんがそう解説してくれた。

 ……だったら、


「これとか、どう?」

「!?!?!?!?」


 その瞬間、ジェシカの両目が見開かれる。


「て、天使の息吹!? こっちは破邪の盾!?!?」

「ちなみにこれが今日の収穫」

「聖樹の根!?!?!?」


 今にもぶっ倒れそうな勢いで驚いている。さっきとは別の意味で心配になるな。


「どれもこれも……存在自体が怪しまれているアイテムばかり……私は夢をみているの……? ああ、全部抱きしめたまま眠りたい……」


 ついには目眩を起こしたようだ。

どうも、俺の身につけているアイテムの数々は、ジェシカにとって目に毒だったようだな。


「ジェシカがここまで驚くアイテムの数々……やっぱり、水晶に映し出されたものは真実だったようね」


 フランさんの言葉で、俺は判定の最中だったことを思い出した。

 そういえば、気になることを言っていたな。


「俺の解錠可能レベルって……どうなんですか?」

「単刀直入に言うわ。――測定不能ね」

「へっ?」


 そ、測定不能?

 そんなことがあるのか?


「私も長らくお婆様に付き添ってスキル判定を間近に見ているけど、こんなこと初めてだわ」

「普通はハッキリとレベルが分かるものよね?」

「そうね。でも、だからこそ、これほどのお宝を手にしていたのだと納得できるわ。もしこれらの解錠を依頼するなら、王宮鍵士ロイヤル・アンロッカークラスじゃなきゃできないし、料金もとんでもない額になるでしょうから。……でも、本当に彼がこれらのアイテムを?」

「そう。それもたったひとりで。嘘に聞こえるかもしれないけど、本当にとんでもないヒキを持っているのよ、フォルトって」

「へぇ……」


 そう語り合うジェシカとイルナ。

 君らこの短時間で随分と仲良くなったね。


 ともかく、フランさんによるスキル判定の結果としては――「解錠スキル持ちであるのは確定したものの、解錠可能レベルについてはハッキリと分からず」という、なんとも中途半端なものだった。


 さて、判定も終わったところで、宿屋へ帰るか。

ジェシカと談笑しているイルナへ声をかけようとした時だった。


「フォルト」


 フランさんが俺の名を呼ぶ。


「なんでしょうか?」

「あなたたち――霧の旅団は、拠点となる場所はもう確保したの?」

「っ!?」


 話は思わぬ方向へ流れ始めた。

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