第23話 鍵の使い方
ゾルダン地方にあるダンジョンを縄張りとするギルドの支配人――フラン婆さんの孫のジェシカ。
両親の死後、部屋に引きこもる彼女をなんとか外へ出すべく、執事のコットーさんが年齢の近い俺とイルナを説得役にしようとしたが――俺はそれよりも効果がありそうなある策を思いついた。
――ヒントはダンジョンの地底湖で見つけたあの鍵だ。
「その鍵を使って何をしようっていうの?」
不思議そうに尋ねるイルナ。
そんなイルナに「まあ、任せてよ」とだけ言って、俺は意識を集中。
誰かに教わったわけじゃない。
ただ、「こうすればいい」ってやり方が頭に直接流れ込んでくる。
その指示に従って、俺は自分の魔力を手にした鍵へと注いだ。
そう。
この鍵の使い道は、宝箱を開けるってだけにとどまらない。
「……
その言葉を口にした次の瞬間――目の前の景色が一変する。
さっきまでいた、フラン婆さんの屋敷じゃない。
全体が真っ白な空間。
それに、イルナとコットーさんもいない。
ここは通常とは隔絶された空間。
俺はこの状況の大きな変化が、手にしている鍵の引き起こしたものであることを理解していた。これも、頭に流れ込んでくる鍵の情報が教えてくれる。
ここは――言ってみれば、あのジェシカって子の精神世界。
俺は今、あの子の心の中にいる。
そして……目の前には少なく見積もっても百以上はある南京錠でガチガチに固められた鉄製の巨大なドアがあった。
大きさは十メートルぐらいか。
これが、今のジェシカの心の状態。
他者との接触を断じて許さない、鉄壁のガードで心を守っている。
しかしまあ……お世辞にも健全とは言えない精神状態だ。
外の世界でのジェシカの様子を見ていれば誰だってそう思う。
「こいつを全部取り除けば……」
ジェシカは以前のような姿になる――そう、この鍵は教えてくれた。だから、俺をここまで案内したんだ。
「……やってやる」
俺は宝箱を開ける時と同じように、魔力を鍵へと注ぎ込む。
だけど、今回はちょっと勝手が違う。
「いくぞ」
直後、俺の頭上に無数の光の鍵が出現。
この鍵で――閉ざされたジェシカの心の扉を開ける。
「いけっ!」
俺の声に合わせて、無数の鍵は巨大な扉を封じている南京錠へと向かっていく。
光の鍵は一斉に南京錠を開け、がんじがらめにされていた扉を開放。
その扉は大きな音を立てながらゆっくりと開いていき、その先には膝を抱えて座っているジェシカの姿があった。
「だ、誰ですか!?」
俺の姿を視界に捉えた直後、ひどく取り乱すジェシカ。
まあ、こっちは事情を知っているけど、あっちは俺の名前すら知らないんだもんな。
――ただ、俺はここで御役御免だ。
「どう? 少しは周りが見やすくなったんじゃないかな?」
「えっ? ――あっ」
ジェシカは何かに気づき、そして静かに涙を流した。
それが悲しさから来るものでないことはすぐに分かった。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫なの!?」
意識を取り戻した途端、イルナが肩を掴んでガクガクを揺すった後、思いっきり抱きつかれた。
「話しかけても返事がないから死んじゃったかと思った……」
心配してくれたのか……ありがたいんだけど、首が締まっているので解放してくれという意志表示をタップで表す。
ようやく解放された後、ジェシカがどうなったのか、部屋へ目を移すと、
「…………」
さっきまで閉じられていた扉は開け放たれ、部屋の中ではジェシカがひとりたたずんでいる。
「ジェシカ様!?」
コットーさんが声をかけると、ジェシカはゆっくりとこちらへと振り返り、そして――
「コットー……心配かけてごめんなさい」
ニコリと微笑んで、そう語るのだった。
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