第22話 町の支配者
大陸最西端の地――ゾルダン地方。
そこにある冒険者ギルドの支配人を務めるフラン婆さんという人物の執事が、リカルドさんから依頼されて俺のスキル診断をするらしい。
「そういえば、そんなこと言っていたわね」
どうやらイルナは知っていたようだが……肝心の俺は聞かされていないぞ?
……まあ、このコットーさんって人は優しそうな感じだし、大丈夫そうだが……念のため、警戒をしておくか。
「さあ、行きましょう。あなたのスキルの詳細な情報を教えてもらわないと」
イルナに背中を押されつつ、俺はスキル診断のため、急遽フラン婆さんの屋敷を訪ねることになった。
◇◇◇
町外れの小高い丘の上にあるフラン婆さんの家。
支配者というくらいだから相当な豪邸なのだろうと想像していたが、思ったより普通サイズの二階建てだった。
「さあ、みなさまこちらへ――奥様がお待ちです」
執事コットーさんの案内で屋敷の中へと入り、フラン婆さんがいるという一階の部屋へと通された。
その部屋はかなり広く、中心には長細い机が設えられており、天井にはシーリングファンが吊るされていた。
その部屋の隅にあるイスに、ひとりの老婆が座っている。
「コットー……誰だい、その子たちは?」
振り向いたその姿から受ける印象は、上品な細身で白髪のお婆ちゃん。
思っていたよりもずっと淑やかで穏やかな印象を受けるこの人こそ、
「奥様、リカルド様からのご依頼にあった――」
「あら、そうだったわね」
この町の影の支配者とされるフラン婆さんだった。
――って、なんだか覇気がないような?
目線もこちらに向けられていないし……こう言っちゃなんだが、まるで抜け殻のようにさえ思えるぞ。
「あ、あの、何かあったんですか?」
「訳ありって感じね」
「……えぇ、実は――」
コットーさんは穏やかな口調で話し始める。
それによると、フラン婆さんの孫のジェシカはつい最近両親を病で亡くして以降、他者との接触を避けるようになり、部屋へ引きこもっているらしい。もうかれこれ一ヶ月近くそのような生活が続いているのだという。
「それは確かに心配ですね……」
「奥様もそれを気にしてか、最近はずっとあの調子で」
「スキル診断ができる状態じゃないわね……」
「これまでは切り替えができていたのですが、どうやらそれも限界……わざわざ足を運んでいただいたというのに……申し訳ありません……」
仕事に支障をきたすほど、孫娘のことが心配ってことか。
「……あの、コットーさん」
「はい?」
「その子の――ジェシカの部屋はどこですか?」
気がつくと、俺はそんなことを口走っていた。
コットーさんに連れられて、俺とイルナは二階のジェシカの私室前に来ていた。
「お嬢様、今日はお嬢様と同じ年頃で、冒険者をしている男女ふたりに来ていただきました」
特に反応は返ってこない。
ただ、コットーさん曰く、今のように引きこもる前はよくギルドへも顔を出しており、冒険者という仕事に憧れていた節があるという。その線からもアプローチをしていこうという魂胆だったが……見事空振りに終わったな。
「お嬢様……」
「これはなかなか難しい案件ですね」
「え、えぇ……そうなのです」
「両親を亡くした影響で心を閉ざしている……ここは慎重に――」
「まどろっこしいのでこのまま突っ込むわ」
「話聞いてた!?」
こちらのプランを全壊させるイルナの発言。
心意気は素晴らしいけど成功へ至るプランがまるでなかった。
――その時、俺は誰かに呼ばれた気がして振り返る。
「? 何かありましたか?」
コットーさんやイルナが不思議そうにこちらを眺めているけど……今の声、聞こえなかったのか?
その声の主を捜しているうちに、なぜかふとあの鍵の存在を思い出す。
まさか、俺を呼んだのは――この鍵か?
俺はズボンのベルトにチェーンで結んだあの鍵を手にする。
「鍵なんて出してどうしたの?」
「……きっと、こいつがジェシカを救い出すヒントなんだ」
「「えっ?」」
イルナとコットーさんの声が重なった。
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