第20話 一方、その頃……【ミルフィ Side】

 レゲン大陸西部にある森林の一角。


「アンヌさん、木の実を採ってきました」

「ありがとう。こっちは釣った魚を焼いているところよ」

「わあ、おいしそう♪」


 フォルトの幼馴染であるミルフィと、霧の旅団のメンバーであるアンヌは、森の中でゲットした食材を使った料理に舌鼓を打っていた。


「お魚、とってもおいしいですね」

「君が取ってきてくれた木の実もおいしいよ」


 楽しくおしゃべりをしながら食事を進めていくが、しばらくするとミルフィの手が止まった。


「? どうかした? 魚の骨が喉に刺さった?」

「い、いえ……ちょっと気になったことがあって」

「何? なんでも言ってよ」


 アンヌの気さくな態度に、ミルフィは重くなっていた口をゆっくりと開いた。



「私たち……完全に迷っていますよね?」



 沈黙。

 しばらくして、


「違うの」


 否定の言葉を口にした。


「私が道に迷ったんじゃない……道の方が迷ったのよ」

「意味が分かりませんよ!?」


 そう。

 ミルフィとアンヌはフォルトたちがいる霧の旅団が次の稼ぎ場所として腰を据えている大陸最西端――ゾルダン地方を目指していた。



 が、道中で道に迷い、名も知らぬ森でサバイバル生活のような状態に陥っていたのである。


「ねぇ、ミルフィ」

「なんですか?」

「人はなぜ過ちを犯すと思う?」

「……急にどうしたんですか?」

「私はそこに成長の余地があると常々思っているの」

「それよりも帰る道順を考えましょう」

「あ、はい」


 冷静にサクッと返されて、アンヌはカバンから地図を出した。


「たぶん、そこを流れているのがこのオーズ川だから……右に向かって行けばたどり着けるはず!」

「せめて東西南北で示してください……」


 本当にSランクパーティーのメンバーなのかどうか疑いたくなる地図の読み方であったが、道中、一度だけあったモンスター襲撃の際、一瞬で蹴散らしたあのデタラメな戦闘力を見る限り、嘘偽りはないのだろうと思う。


「でもまあ、あなたがあの子の幼馴染なんて驚いたわ。世界は広くても世間は狭いと実感するわ」

「わ、私だって驚きましたよ。まさか、フォルトがあの霧の旅団の一員になっているなんて」


 それは無理もないことだった。

 フォルトはまだ正式なスキル判定もこなしていない状態。そんな彼をなぜ霧の旅団はメンバーに引き入れたのか。ミルフィ個人としてとてもきょうみがあった。


「どうしてフォルトをメンバーに?」

「うーん、決定したのはリーダーだから私の口からはなんとも言えないな」


 相当な変わり者であることはミルフィの耳にも届いているが、それ以外の詳しい情報は知らなかった。

 ただ、大事なパーディーのメンバーを決めるのには何か決定打があったはず。

 

「まあ、才能を見出したっていうのもあるけど、リーダーの本音としては娘のイルナがフォルトのことをいたく気に入っていたっていうのがあるだろうね。もしかしたら、イルナをフォルトのところへ嫁がせるのかも」

「…………えっ?」


 ミルフィの瞳から光が消える。


「あのままふたりがくっついてくれたら、パーティーも安泰だと――」

「…………」

「えっ!? ちょっ!? ミルフィ!? なんで急にそんな歩くの速くなったの!?」


 恐ろしく速度の上がったミルフィを追いかけるアンヌ。

 目指すゾルダン地方まではあとわずかに迫っていた。

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