第19話 ふたりでお風呂(健全)

次回は明日の朝7:00!

明日も2話投稿予定!



 灼熱のダンジョン――《マグマ・バレー》攻略後。

 結局、そこでの稼ぎは黄金神の祝福を使用しておよそ三万ドールとなった。

 俺としては明日もあそこへ行って狩りまくりたいところだが、汗まみれになってテンションがダダ下がりのイルナからは大反対された。


 ともかく、汗まみれの俺たちが向かったのは――


「こんなところがあるとは……」


 町の中心部にある、あちこちから蒸気が漏れ出ている建物。

 ここは誰もが利用できる公共の大浴場だった。


 俺たちはカウンターで受付を済ませると、更衣室で着替える。

鍵はなくすと困るので、丈夫な細い縄を使い、首飾りのようにして肌身離さず持つようにした。

 俺はこういった共同浴場という施設は初めて利用する。レックスたちは利用していたみたいだけど、俺は許されなくて、宿屋の風呂を借りていたな。本来、客は使用できない従業員ようのものだったけど、店主のご厚意によりよく使ったっけ。……あれ? 思い出したら涙出てきた。


と、ともかく、イルナから詳しく作法を教わる。

それによると、裸で入らないというものがあるらしい。基本的に自前らしいが、何も持たずに来た俺は受付で水着のような軽い素材のハーフパンツを渡された。それを着用するため、一旦イルナと別れ、男子更衣室へと入って着替えてから浴場へと向かった。

 

「ここが……共同浴場……」


 だだっ広い空間に浴槽が十個以上ある。どれもかなりの大きさで、のんびりまったりとくつろげそうだ。おまけにサウナまで完備している。


「こんないいところがあったなんて……報酬を安定して得られるようになったら、常連客になりそうだ」

「そうね。でも、最近は町の水道の調子が悪いらしくて、時間を限って営業をしているそうよ。噂では、このままだと営業自体が難しくなってしまうみたい……」

「それは残念な…………うん?」


 誰だ?

 今、俺の言葉に相槌を打ったのは。


「どうかしたの、フォルト」

「いや、それが――って、イルナ!?」

「何よ? 幽霊でも見たような反応して」

「何をそんな

「いやだって――あ、あれ? 他にも女性客が……」


周りをよく見まわしてみれば――あちらこちらに女性の姿が。

そう。

ここは混浴だったのだ。

 全員、水着みたいな薄着を着用しているので、全裸というわけではないが、普段の格好より肌の露出が明らかに多い。


「は、恥ずかしくないんだ……」

「別に。裸じゃないし」

「それはそうだけど……」

「っ! だからってジロジロ見るのは禁止!」

「あ、す、すまん!」


 そりゃそうだ。

 思いっきりガン見したら怒られるよ。


 気を取り直して、俺はイルナが教えてくれた作法の通り、まずは体を洗って綺麗にしてから浴槽へと向かう。


「「んはぁ~……」」


 肩まで湯につかると、ふたり揃ってそんな声が漏れた。

 温くもなく熱くもなく、ちょうどいいお湯加減だ。


 ふと見ると、仲の良い姉妹と思われる女子ふたりがお互いの背中を洗いっ越している姿が飛び込んできた。

ああ……なんと平和で心が豊かになる情景か。

ジッと眺めていると、


「実に素晴らしい……」


 真横から声。

 驚いて声のした方へ顔を向けると、いつの間にか見知らぬ若い女性がいた。


「やはり女の子同士というのは絵になるなぁ」


 女性はしみじみと語る。――というか、


「あの……どちら様ですか?」

「おっと失礼。私はしがない冒険者でグレイスという者だ」


 グレイスと名乗ったその女性は黒髪のポニーテールが良く似合う可愛いというよりは美人という表現がしっくりくる人だった。

 そう……美人なのだが、


「可愛い女の子とお楽しみ中な君の近くにいたらもしかしたらあのような素晴らしい光景を拝ませてくれるのではないかと思っていたがここまでうまく事が運ぶと逆に狙ってやっているんじゃないかと勘繰りたくなるがそれはそれでこちらの妄想を掻き立てるので私としては全然構わないむしろ望むところであり――」

「…………」


 見事なまでに残念な美人だった。

息継ぎもろくにしないでよくあんな長く喋れるな。


「おっと、再び失礼。どうも興奮してしまうと後先考えず話してしまう癖があってね」

「は、はあ」


 グレイスさんに圧倒されてしまった俺だが、冒険者としての知識と実力はたしかなようで、すでにこの辺りのダンジョンは調べ終えたらしい。気がつくと、周りの冒険者と思われる男女が何やらヒソヒソとこちらをチラ見しながら囁いている。

 それほど周囲から注目される存在ってわけか。

 いい意味なのか悪い意味なのかはさておいて。


「今、解錠レベル【81】と【94】の宝箱を王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーに預けているところなんだ」


 シレッと凄いこと言ったな。


「あれの中身を売り払ったら、この町を去るところだったが、最後にいいものを見せてもらったよ」

「その宝箱……この辺りでドロップしたんですか?」

「うん? 興味があるのかい?」

「一応、私たちも冒険者ですし」

「そうだったのか。だったら、今のオススメは――」

「ああっ! ダメっすよ、グレイスの姐さん!」


 突如現れた若い金髪のリーゼント男が、グレイスさんを指差しながら叫ぶ。


「また勝手に穴場の狩りポイントを教えて!」

「人道的支援じゃないか。そうカリカリするなよ、スコット」


 グレイスは「あっはっはっ」と笑いながら言うが、確かに、獲物がたくさん狩れるポイントを人にばらすのは冒険者として飯の種を確保する機会が減る――いわば死活問題につながりかねない。


「それに、下手に情報を持っていることがバレて目をつけられたら大変っすよ。その子たち、まだ駆け出しの新米みたいっすから」

「結局、君は彼らを心配しているのか?」

「そうっすよ! こういうのはもっと段階を踏まないとダメっす!」

 

 スコットと呼ばれたリーゼントの人は、見た目のインパクトとは違い、思いのほかいい人だった。


「やれやれ、誰かさんのせいで騒がしくなってしまったな」

「姐さんのせいっすよ! 俺たちのリーダーなんだから頼みますよ、ホント!」


 えっ?

 リーダー?

 

 ……グレイスさんが冒険者っていうのは分かったけど、まさかリーダーだとは思わなかった。そんなに実力がある人だったなんて。


「すまなかったね、君たち」

「い、いえ」

「それじゃあ、縁があったらまた会おう」


 最後にグレイスさんはウィンクをしてそう告げると、スコットさんを従えて別の浴槽へと向かって歩き出した。


「な、なんだったんだ……」

 

 怒涛の勢いで過ぎていった、他パーティーとの交流。

 ただ、ドロップした宝箱の解錠レベルが確かならば――あの人が率いる冒険者グループは相当な実力があると言える。


「あんな風になれるといいなぁ……」

「ホントねぇ……」


 そう呟きながら、俺とイルナはもう一度肩まで湯につかったのだった。


  ◇◇◇


 共同浴場から宿屋へ戻ったが、どうにも静かだ。


 ――って、そりゃそうか。

 リカルドさんたちは今日から五日間に渡って新しいダンジョンの調査を行っているのだから。


「……あれ? ていうことは――」


 俺は恐るべき事実に気づく。

 ということは――俺とイルナふたりだけで夜を過ごすということになる。


「…………」


 いや。

 なんでそんなわざわざ意識するような言い方をしなくたっていいじゃないか。

 そりゃあ、俺だって男なわけだから、イルナのような可愛い子と一緒だってなったらテンションは上がる。

 しかし、冷静になって考えると、イルナは男ばかりのパーティーで過ごしてきたのだから、異性に対する耐性は俺よりずっとあるはずだ。きっと、この程度のことなんてなんともない日常の一コマに過ぎないのだろう。


 きっと、その顔つきはいつもと変わらない。

 そう思って、視線を移動してみれば、


「~~~~っ!」


 あ。

 まずい。

 向こうも凄く意識してる。

 


 結局、俺たちはお互いを意識しないため、黙ったままそれぞれの部屋へと戻ったのだった。

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