第17話 新しいお仕事

※次回は明日朝7:00頃!




 次の日の朝。


「と、いうわけで、俺たちは今日から五日間ほどダンジョンへ潜る」

「「えっ!?」」


 いきなりの発表に、朝食をとっていた俺とイルナは驚いた。


「元々、ここへは新しく発見されたダンジョンの調査役として呼ばれていたんだ。で、その調査の日が明日からって昨日の議会で決まったんだよ」


 エリオットさんが補足情報を――っていうか、補足ってレベルじゃないよ。リカルドさんって、その辺は大雑把だからなぁ。

 人は見かけによらないとは言うが、リカルドさんの場合は見た目と中身がバッチリ噛み合っている。まさに豪快そのものって感じの人だ。


「それよりも、アンヌの到着が遅れているという点が気がかりです。やはり、私が残るべきだったような……」

「確かに、あいつは超ド級の方向音痴だが、さすがにここまでは一本道だから迷うはずがないだろう。それに、今回の交渉ではどうしてもおまえの力が必要だったからな」


何やら話し込んでいるリカルドさんとエリオットさん。

……って、よく考えたら、誰も足を踏み入れたことのないダンジョンの調査を依頼されるってめちゃくちゃ凄いことじゃないか? そこはさすがSランクパーティーと言ったところか。



「おまえたちふたりは今日もしっかり修行へ励めよ!」


 修行に励む――つまり、お留守番ってことか。

 

「あっ! そうだ!」


 宿屋を出る直前、何かを思い出したのか、リカルドさんがそう短く叫んでこちらへと振り返る。


「追加の修行メニューを言い渡すぞ」

「「追加の修行メニュー?」」


 ……あんまりいい予感はしない。


「俺たちが帰ってくるまでの間、この町での拠点となる家を確保しておいてくれ」

「「えぇっ!?!?」」


 い、家って……《霧の旅団》の拠点を俺たちが!?


「そ、そんなの――」

「じゃあ、いってきます!」


 反論する前にリカルドさんたちはさっさと目的地へと向かって出発。


「……どうする?」

「あんまり気にしなくていいわよ」


 イルナは思いのほかサッパリしていた。


「パパはたまに気まぐれで無茶ぶりをするのよ」

「そ、そうなのか?」

「本当にどうしようもない時はエリオットさんがツッコミを入れるわ。それがないってことは、いつもの悪ふざけってことよ」


 な、なるほど。

 それがこのパーティー独特の決まり事ってヤツか。


「とはいえ、拠点を決める前に五日間も離脱する……痛いのは確かね」

「じゃあ……」

「一応、物件情報は集めておきましょう。実際の交渉は他の人に頼めばいいし」

「そうだね」


 しかし、あれだけの人数が暮らせる家か。

 かなりの敷地が必要になるな。

 前の拠点は相当デカかったし、あれが基準として考えないと。


「さて、拠点のことはとりあえず置いておくとして――今日は新しいダンジョンへ行くわよ!」

「えっ? グリーン・ガーデンじゃないのか?」

「さすがにもうちょっとレベルが高いダンジョンに挑戦したいでしょ?」

「まあ、確かに。ちなみに、行くあてはあるの?」

「えぇ。実は昨日、エリオットさんから近辺にあるダンジョンの位置を示したマップをもらっていて、そこからいい場所を見つけたの。まあ、ついてくれば分かるわ」

 

 そういうことか。

 まあ、ここはイルナの案に乗っておくか。


「それで、そこはなんていうダンジョンなんだ?」

「ズバリ……灼熱のダンジョン――《バーニング・バレー》よ」


  ◇◇◇


 俺たちにとって新たな修行の場――灼熱のダンジョン。

 灼熱という言葉が付くくらいだから、相当暑いというのは覚悟していた――が、


「ちょっと暑すぎじゃないか……?」


 コメカミから頬にかけて汗が伝い、地面に落ちる。

 ついさっきまで、ちょっと肌寒いくらいの気温だったのに……周囲の岩肌も、その暑さを演出するかのように赤みが増している。


「他の冒険者もいないみたいだし……ハズレだったんじゃないか?」

「ぐぅ……」


 あ。

 さすがにハズレは言い過ぎだったか。


 ――と、


「うん? あれ? ちょっと涼しくなった?」

 

 奥へと進むと、徐々に暑さは和らいでいった。どうやら、俺たちが通ってきた入り口付近がピークだったらしい。


「これでようやくまともに動けそうだ」

「そ、そうでしょ! すべて私の計算通りよ!」


 絶対に違うと思うけど……まあ、暗いままでいるよりいいか。

 ともあれ、多少の熱気は残るものの、これならば問題なく動ける。


 そこへ、


「ボアァッ!」


 俺たちの目の前に叫ぶ火の玉が飛び出してきた。


「ファイヤースライム!」


 イルナが叫び、拳を握って構える。

 その真剣な顔つきから、以前戦ったマッスルスライムとは違い、こっちは強敵であることがうかがえる。


 ――と、いうことは、結構いい宝箱をドロップするかもしれない。

 俺は改めて敵を観察。ファイヤースライムと言うだけあって、全身が炎に包まれているスライム。


 ……待てよ。

体中が炎なら、


「俺の水魔法の出番だな」


 炎は水で消せる。

 ここでも水魔法が役に立ちそうだ。


「ごあっ!」


 こちらの狙いに気づいたファイヤースライムが口から火炎を放つ。

 だが、


「破邪の盾!」


 三種の神器のひとつ――破邪の盾。

 こいつで炎攻撃を無効化してからお返しだ。


「いくぞ!」


 今回は矢じゃなくて、龍声剣へ水をまとわせると、そのままファイヤースライムへと斬りかかる。呆気なく倒されたファイヤースライムは、その姿を宝箱へと変化させた。


「ず、随分とあっさり倒せたわね。ファイヤースライムといえば、マッスルスライムほどではないけど耐久力は高いはずよ」

「相手は火の塊だからな。水魔法に属性相性が悪いんだろ」

「あ、そっか。……なら、ここのモンスターたちにとってあなたは天敵ってことになるわね」

「だといいけどな」

 

 ダンジョンでの油断禁物!

 ――けど、この調子なら、必要最低労力で敵を倒せる。

 おまけに、ここはモンスターのエンカウント率が高い。

 恐らく、ほとんど冒険者と思われる人がいないから、モンスターも無警戒で突っかかってくるのだろう。


 ここは――俺たちにとって穴場になるかもしれないな。

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