第10話 初心者向けダンジョン――《グリーン・ガーデン》

※本日は2話投稿予定!



 俺にとって新たな船出となるダンジョン――グリーン・ガーデン。


 イルナによると、そこは別名「草原のダンジョン」とも呼ばれているらしい。


草原――その言葉から察するに、安全な場所に思ってしますが……それでも、モンスターがいる危険地帯に変わりない。気合を入れて、立ち向かわないとな。


 グリーン・ガーデンの入口は、平原のど真ん中にポツンと存在していた。周辺にはこれから潜る、あるいはすでに今日一日分の稼ぎを終えた冒険者たちが成果を報告したり、情報を交換したり、今まで訪れてきたダンジョンと比べて賑やかだった。

 攻略に熱心な冒険者ともなると、ダンジョン近くにテントを張って、そこで生活している者も少なくないという。


「こっちは随分と賑やかだね」

「ここで冒険者としての基礎を学ぶ人が多いのよ」


 その時、俺たちの横をふたりの冒険者が通っていく――と、イルナの目がキラリと光った。


「……ツイているわね」

「? 何が?」

「さっきすれ違った冒険者パーティーから漏れ聞こえた話だと、どうやら、ここ数日当たり日が続いているらしいわ」

「えっ!? ホントに!?」


 聞いたことがある。

 雑魚モンスターから、高レベルの宝箱をドロップするモンスターの出現率が大幅に増加する日らしく、冒険者にとっては喜ばしい日だ。

 数日間続くと言われているが、その法則性は未だ分かっていない。


「あたしたちもレア宝箱ゲットに挑むわよ」

「おう!」


 士気も高まったところで、いざグリーン・ガーデンへ。

 何がゲットできるのか、今から楽しみだ。



 グリーン・ガーデン内部は至って普通の洞窟といった感じだった。

 特にこれといった障害もないまま、しばらく進んでいくと広い空間に辿りつく。

 そこはダンジョン内部でありながら芝生が広がっている。天井に張りついている発光石に照らされたその芝生の輝きは、さながら緑色の宝石をちりばめた絨毯のようだった。


「な、なるほど……まさにここは草原のダンジョンだな」

「ね? 綺麗でしょ?」

「ああ。――さて、何が出るかな……」


 俺のテンションはもう最高潮に達しようとしていた。

 最高の武器を手にし、まともにダンジョンへ挑むのはこれが初めて――テンション上がらない方がどうかしているか。


 さあ、なんでもいいから出てこい。



 ………………

 ……………………

 …………………………



「どうしてこうなった……」


 俺たちは途方に暮れていた。

 なぜなら、


「まさか一時間さまよってモンスターが一匹も出ないなんて……」


 イルナの言う通り、俺たちはダンジョンへ来てからまだ一度もモンスターと遭遇していない。

 エンカウント率はどうなっているんだ? いくらなんでも平穏過ぎるだろ……。


「ちょっと休むか」


 いつモンスターが出てもいいように気を張っていたせいか、なんだか異様に疲れたな。俺は手頃な大きさの岩にドカッと腰を下ろした。


「変ねぇ……こんなに探し回らなくても、大抵は向こうから出てくることがほとんどなんだけど……」


 イルナは首を傾げている。

 どうやら、ここまでエンカウントしないのは異常事態であるらしい。ともかく、モンスターのいそうなところを手当たり次第探っていくしかないか。俺はその提案をイルナに持ちかけようと腰を上げた。


「――ぬ?」


 その際、何やら違和感が。

 俺はそれまで座っていた大きな岩へ視線を移す。


 ガタガタガタッ!

 

 突然、岩は大きな音を立てて崩れていく。

 ――いや、違う。

 これは……変形しているんだ。


「! ロックラビット!」



 イルナが叫んだ。

ロックラビット――全身が灰色で、岩にうまく擬態していた。獲物を捕らえるための工夫だろう。

 大きさは約二メートル。

 ガタイはいいが、その分動きは鈍そうだ。


「あのモンスターって強いのか?」

「手軽に狩れる弱小モンスターよ。だから、ドロップするにしても、たいしたアイテムじゃないわ。解錠レベルも高くて【5】くらいかな」


 まあ、最初の標的としてはいいんじゃないかな。


「つまり――記念すべき討伐第一号ってわけだ」


 俺は龍声剣を構えた。

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