第9話 いざ、新天地へ
《霧の旅団》は丸一日をかけて西へ移動した。
ただ、アンヌさん率いる三番隊はやり残したことがあるとのことで、あと一日だけ残ることに。
目的は新たな土地での冒険者生活。
そして、国からの依頼をこなすこと。
以上ふたつだ。
「どう? 少しは慣れた?」
移動中の馬車の荷台。
一緒に乗っていたイルナが話しかけてくる。イルナは俺がパーティーに溶け込めるようにいろいろと気遣いをしてくれていた。とてもありがたいよ。
「イルナのおかげでだいぶ喋れるようになったよ。……でも、俺なんかがこの凄いパーティーでやっていけるか、ちょっと自信がなくて」
「そうなの? みんなあなたのことを凄いって褒めていたのに」
「うーん……なんというか、まだ実感が湧かないっていうのもあるかな」
ついこの前まで、役立たずの能無しって散々バカにされ続けてきたからな。
今に手にしている龍声剣をはじめ、あの地底湖で入手したアイテムと謎の鍵――解錠スキル持ちの
「この先ついていけるか心配――」
話の途中だったけど、急にポスンという優しい衝撃が左肩にあった。
見ると、眠ってしまったイルナがもたれかかってきていたようだ。
「……頑張ってくれていたもんな」
俺が早くパーティーに馴染めるよう、いろいろやってくれていたからな。
「…………」
思わず、ジッとイルナを見つめてしまう。
整った顔立ち。
長い睫毛。
柔らかそうなピンクの唇。
そして――割と露出多めの服装。
……あまり凝視しないでおこう。
◇◇◇
レゲン大陸最西端の地。
そこでもっとも栄えているのが、次の拠点地であるクロエルの町だ。
「うおぅ……人が多い」
到着したのは昼過ぎで、朝市のピークはとうに過ぎているはずが、今までいた町とは比べ物にならない人の数だった。
「そんなに驚くほど?」
「いやいや、凄くない?」
「そう?」
どうやらイルナはこの規模の町は慣れっこらしい。
そりゃそうか。
だってSランクパーティーのメンバーだもんな。
……ちなみに、起きる直前にそっと離れたため、俺の体にもたれかかって寝ていたという事実はバレなかった。
「おーい、ふたりとも」
馬車を下りてすぐ、リーダーのリカルドさんがやって来る。
「俺たちはこれから大事な打ち合わせがあるから――」
「分かっているわ、パパ。あたしがフォルトをバッチリ鍛えるから!」
イルナは力こぶを作るポーズでリカルドさんに宣言。
その後、リカルドさんたちは「じゃあ、俺たちはこれで~」と言ってその場から立ち去ってしまう。
「あ、あれ? 残ったのは俺たちだけ?」
「そうよ。ほら、さっさと行くわよ」
「い、行くって、どこへ?」
「冒険者が行くところって言ったら決まっているでしょ。――ダンジョンよ」
そう言って、イルナはスタスタと歩き出した。
「置いていくわよ?」
「あ、ちょ、ちょっとまって!」
俺は慌ててイルナの背中を追いかけた。
本来、ダンジョンへ寄る前にギルドへ行き、クエストを確認するものだが、今回はそのままダンジョンへ直行する。
目的地まで、町から南へ一キロほどだ。
「手に入れたアイテムはギルドが買い取ってくれるわ」
「了解」
「それと、入手したアイテムについては必ずリーダーであるパパに報告すること。これを忘れたらきつーいペナルティがあるからね」
「き、肝に銘じておくよ」
道中はイルナからパーティーのルールなどについて説明を受ける。
そうこうしているうちに、ダンジョンへと到着した。
「ここはグリーン・ガーデンと呼ばれるダンジョンよ」
「グリーン・ガーデン……」
「強力なモンスターは出てこないし、規模も小さい。この辺りの地方ではもっとも攻略難易度が低くて初心者向けとされているわ」
しょ、初心者向け……って、思えば初心者そのものだもんな、俺。
だからリカルドさんも、イルナひとりだけを俺につけたのか。
「……これだけは言っておくわ」
ダンジョンに入る直前、イルナが改まって言う。
「パパはあなたに期待をしているわ」
「俺に?」
「ええ。本来なら非戦闘要員である
なるほどね。
そんな狙いがあったのか。
「さあ、派手に暴れてもらうわよ」
「あははは、お手柔らかに頼むよ」
その期待に応えないとな。
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