第6話 スカウト

※本日は4話投稿予定!



「ちょっとパパ! 何を考えているの!」

「えっ? この子を仲間に加えようと――」

「そうじゃなくて! うちは大陸でも五つしかないSランクパーティーなのよ!?」

「うん。知ってる」


 そりゃリーダーだからね。

 って、そうじゃない。


「どこの誰だかも知らないヤツを勝手に勧誘しないでよ!」


 うん。

 勧誘されている身で言うのもなんだけど、俺もそう思う。しかし、当のリカルドさんはあっけらかんとした態度で告げた。


「この子はいい子だ。目を見れば分かる」

「うっ……」

「それにいいモノも持っている」


 そう言って、鍵と装備を指差した。


「た、確かに……」


 この親子の関係性はよく分からないが、イルナがそのひと言で口をつぐんでしまったところを見ると、「これを言い出したらもう聞かない」ってあきらめるくらいのレベルなのだろう。

 逆に言えば、俺はSランクパーティーである《霧の旅団》のリーダーからそれほど熱烈な勧誘を受けているということになる。


「どうだ? あの場所に仲間も連れずひとりで来たってことは今フリーなんだろ? 悪いようにしないぜ?」

「あっ――」


 今所属しているパーティー。

 その言葉が耳に入った瞬間、脳裏をよぎったのはミルフィの顔だった。

 ……でも、ミルフィはリーダーのレックスと――


「? どうかしたの?」


 ミルフィの顔を想像していたら、その上からイルナの顔がかぶさるように覗き込んできた。


「うおっ!?」

「きゃっ!? ちょ、何よ!」

「す、すまない。ちょっと考え事をしていて」

「ということは……もうパーティーに所属しているってことか?」

「あ、いや、実は――」


 俺は地底湖にたどり着くまでの経緯をふたりに説明した。


「な、何よ、それぇ!」


 真っ先に反応したのはイルナだった。


「人を囮に使って自分たちだけ逃げだすなんて!」

「……モンスターの注意を引き、そのうちに逃げだすアイテムならどこでも安価で手に入るが、話を聞く限り、その備えすら怠っていたのだろうな。冒険者とは呼べん、素人の集まりのようだ」

「まったくよ!」


 大声で怒りをあらわにするイルナ。

 一方、口調こそ静かだが、リカルドさんも明らかに怒っていた。


 ……それが嬉しかった。


 俺のために怒ってくれる人なんて、ほとんどいなかった。レックスに冷遇されている時にミルフィが庇ってくれていたけど……今戻ればそれもないのか。


 ――あのパーティーに、もう俺の居場所はないんだ。


「しかし少年……これも何かの縁だと思わないか?」

「えっ?」

「あの断崖絶壁から落ちて生き残り、そこで三種の神器を入手して俺たちと出会う。――まあ、仲間に裏切られた直後だっていうのに信じろというのは難しいと思うが……俺たちはおまえをそんな目には遭わせない。絶対に、だ」

「そうよ! そんなチームに戻るくらいならうちにいなさいよ!」


 イルナの言っていることがさっきと真逆になっている――というツッコミはこの際置いておくとして、


「で、でも、俺はなんの役にも……」

「三種の神器を使ってアイアン・クラブをひとりで討伐したろ? それだけで十分うちにくる資格はある。それに……俺はどちらかというと、こっちの役割で君の力を必要としているんだけどな」

「こっち?」


 リカルドさんは手にしていた鍵を見せながら言った。


「君には王宮鍵士ロイヤル・アンロッカーにさえなれる才能があると思っているんだけどな、俺は」

「俺が……?」


 鍵士、か。

 考えたこともなかったな。


「実を言うと、ちょうど新しい鍵士アンロッカーを探していてな」

「で、でも、俺まだスキル診断を受けてなくて」

「そうなの? ……でも、その鍵はあなたを主人に選んでいるみたいよ?」

「? どういうこと?」

「ほれ、持ってみな」


 リカルドさんが鍵をこちらへと放る。

 慌てて、俺がその鍵をキャッチすると、凄まじい輝きを見せた。


「こ、これは……」

「鍵がおまえを選んだんだ。スキル診断をするまでもない。君は――鍵士アンロッカーだ」

鍵士アンロッカー……」


 それが、俺の持つスキル。

 果たせる役目。

 

「……あの、リカルドさん」

「うん?」

「俺をパーティーに入れてくだ――」

「分かった!」

 

 食い気味に了承された。

 

「そうと決まったら早速次のダンジョンへ行くぞ! 旅の支度をしろ!」

「えっ!? い、今からですか!?」

「当然だ! ほら、急げ!」

「えぇ……」

「諦めなさい。パパはああ見えて頑固だから」


 苦笑いを浮かべるイルナ。

 と、


「よろしくね、フォルト」

「あっ――うん!」


 俺とイルナは握手を交わす。

 なんだか、むずがゆいけど……仲間になった証しだって気がしてとても嬉しかった。

 俺はここからやり直す。

《霧の旅団》の一員として。

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