第4話 三種の神器

 自分でもよく分からないうちに、俺は三種の神器を手に入れていた。

 そして、これまたよく分からないうちにモンスターと遭遇。


 三種の神器がある場所ってことは、ダンジョンの最奥部。

 この辺にもなると、見たことのないサイズのモンスターが現れる。


 目の前にいるカニ型モンスター――《アイアン・クラブ》がいい例だろう。

 先ほどまで俺を追いかけまわしていたモンスターたちはせいぜい人間よりも少し大きいくらい。だけど、このアイアン・クラブは少なく見積もっても五メートルはある。


 ……いつもなら真っ直ぐ逃げだすところだけど、


「今は――こいつがある」


龍声剣。

天使の息吹。

破邪の盾。


 この三つが揃えば、俺でも戦えるって気がしてくる。

 どうせ、こいつクラスのモンスターがこの辺りにはゴロゴロいるんだ。倒せないってことは、生きて帰れないってことに直結する。


「来い!」


 こんなところで死んでたまるか。

 必ず生きて脱出してやる。


「シュルルル……」


 アイアン・クラブはその名が示す通り、鋼のように硬いボディを持つ。普通の剣や斧じゃ歯が立たない。討伐の基本は魔法攻撃になるのだけど――って、考えていたら、敵のハサミが真っ直ぐ俺へと振り下ろされた。


「速っ――」


 言葉を発するよりも先に、俺はハサミにぶつけるような形で左腕を突きだす。

 次の瞬間、「ガン!」という音と共に、アイアン・クラブのハサミ(右手)がクルクルと宙を舞った。


「うおっ!?」


 あれだけデカい腕をめちゃくちゃなスピードで振り下ろしてきたが、【破邪の盾】はそれをあっさりと弾き飛ばした。威力が強すぎた反動なのだろう。


 向こうも何が起きたか分かっていないらしく、突然消えた自分のハサミを探してウロチョロしている。

 こんな小さな相手に負けるはずがないって感じだな。

 その余裕……後悔させてやる!

 ――龍声剣の魔法攻撃で!


「はあぁ!」


 俺はこれまでほとんど使ったことのない魔力を【龍声剣】へ集める。密かにしていたミルフィとの特訓が役に立ったな。


 属性は雷で!


「いけぇ!」


 俺の魔力はその属性を雷に変えてアイアン・クラブを襲う。


「っっっ!?」


 自分のハサミを探すのに一生懸命だったアイアン・クラブはまともに雷魔法を受け、そのまま地響きを立てて仰向けになると口から泡を吹きだした。


「……やった?」


 信じられない。

 俺がたったひとりで、あんなデカいモンスターを倒したのか?


 その事実を呑み込めずに呆然としていると、


「おいおい! 先客がいるぞ!」

「嘘っ!? なんで!?」

「はあ!? マジかよ!」

「あの情報をどこかで聞きつけたヤツがいるとはな」

「計算外ですね」


 なんか、男女入り混じった複数の声がする。

 もしかして冒険者パーティー?


「た、助かった……」


 そう思った矢先、俺は安堵のためか意識を失った。

 ――三種の神器を装備したままで。

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