第3話 解錠士《アンロッカー》

「このペンダントは……」


 見たことのない赤いペンダントを手に取ると、俺はリュックの中にカタログがあったことを思い出す。


「そ、そうだ。こいつで確かめてみよう」


 カタログとは、手に入れたアイテムが市場でどれほどの価格で取引されているとか、希少価値とか、そういったアイテムの情報が手に入る物で、冒険者にとっては必需品と言っていい。


 俺はカタログへそのペンダントをかざす。

 すると、それまで白紙だったページに情報が書き込まれていった。


 ――と、その時、ペンダントか突然眩い閃光を放つ。


「うおっ!?」


 俺は咄嗟に目を伏せる。

 しばらくしてゆっくりと目を開けた瞬間、自分の身に起きた異変に気づいた。


「! け、ケガが!?」


 歩くのさえ困難だったはずが、万全の状態にまで回復していたのだ。


「ど、どうなっているんだ……」


 状況が理解できずにいると、さっきのカタログが目に入った。

 そうだ。

 きっとアイテムの効力に違いない。

 そう思って、書き込まれた情報に目を通してみる。

 れによると、


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アイテム名 【天使の息吹】

希少度   【★★★★★★★★☆☆】

解錠レベル 【738】

平均相場価格【測定不能】

詳細    【身につけている者のあらゆる傷、病、状態異常を癒す】



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「!? な、なんだ、これ!?」


 思わず叫んだ。

 効力は俺の睨んだ通り。

 だけど、その他の項目が――こんな表記……今まで見たことがない。

 相場価格の測定不能については、過去十年間の間に一度もドロップしていないアイテムにのみ表記される。なので、稀に見ることがあるのだが、希少度★8っていうのは初めて見た。俺が見た過去最高のレア度は★5だが、それでもかなりの高額で取引されるアイテムだったぞ。

 そのアイテムの価格を決定する決め手――解錠レベルの数値もおかしい。

 三桁自体初めて見たが、500以上ともなると世界に百個とないはず。

 それを、俺が手にしている……その事実に、思わず震えた。

 さらに、


「もしかしたら……他の宝箱にも……」


 俺の目は残りふたつの宝箱へと向けられた。

 酔っ払いが言っていた三種の神器。

 なるほど……この【天使の息吹】はそのひとつに数えても問題ないくらい超絶レアなアイテムだ。


 本来、これほどの解錠レベルなら、王宮解錠士ロイヤル・アンロッカークラスじゃなければ不可能だ。


 ……でも、俺はこいつを開けられた。


 その事実を認識した時、自然と目線は手にした小さな鍵へと向けられた。


「これのおかげか……? でも、解錠スキルなんて――」


 解錠スキル持ちだけが、解錠士アンロッカーとなれる。

 俺はスキル診断をやっていなかったから分からなかっけど――もしかして、解錠スキル持ちだったってことか?


 それにしたって、いきなり三桁越えの、しかも500以上の宝箱を開けられるなんて聞いたことがない。


「こ、こっちも試してみるか」


 少し恐怖を覚えながらも、次の宝箱へ手を伸ばす。

 やっぱりすんなりと開いたな。

 中身は――


「? 腕輪?」


 小さな腕輪だった。

 手に取ってみた、次の瞬間、


「わっ!」


 腕輪が光り、何もしていないのに左腕へと装着されていた。

 でも、装着しているという感覚がない。

 とりあえず、外れそうにもないので腕につけたままカタログへかざしてみる。

 すると、


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アイテム名 【破邪の盾】

希少度   【★★★★★★★★★☆】

解錠レベル 【883】

平均相場価格【測定不能】

詳細    【魔法・物理による直接攻撃を無効化】



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「なあっ!?」


 腕輪の思っていたのは盾だった。

 ……いや、驚くのはそこじゃなくて、こっちも数値がおかしすぎる!?


「じゃ、じゃあ、三つめは……」 


 もう訳が分からなくなって、勢いのままに最後の宝箱を解錠してみる。そこには立派な装飾が施された剣が入っていた。


「おぉ……いかにも高価って感じの剣だな」


 早速手に取ってカタログへかざす。


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アイテム名 【龍声剣】

希少度   【★★★★★★★★★★】

解錠レベル 【926】

平均相場価格【測定不能】

詳細    【全属性の魔法攻撃が使用可能になる。また、持ち主の魔力を大幅        に増幅させる】



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「マ、マジか……」


 もっとやべぇアイテムが出てきた。

【★10】とか初めて見たよ……。

 龍声剣……こいつに関しては名前だけ聞いたことがあるけど、まさか実在していたなんて。


 これで三つ。

 すげぇ……三種の神器の名に恥じないアイテムばかりだ。

 その性能に呆然としていると、背後に気配を感じた。

 慌てて振り返ると、地底湖の湖面が何やら泡立っている。

「なんだ?」と思って近づくと、突然大きな水柱が上がり、そこから現れたのは――巨大なカニ型のモンスターであった。


 ……どうやら、アイテムの効果を試さざるを得ないようだな。

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