第2話 ダンジョン最奥部

 一体どれくらい歩いただろうか。

 時間的な感覚がないため、正確に判断できない。

 そもそも、今どこにいるのかさえ分からないんだ……このまま朽ち果てることだって十分あり得る。

 

 最悪の未来が脳裏をよぎる中、俺が行き着いた場所は――


「ち、地底湖……?」


 ダンジョンに広がる湖。

 そこは、皮肉にもレックスたちが目指していた目的地であった。というのも、レックスはここに《三種の神器》というとんでもないお宝が眠っているという情報を手に入れてきたという。

……まあ、酒場にいた飲んだくれから聞いたらしいから、信憑性は皆無だけど。


 でも、湖があるのは事実だった。

 たぶん、これは他の冒険者も知らないだろう。

 偶然なのか?

 それとも、その飲んだくれ言うように、ここにはとんでもないお宝があるのか?


「……とにかく行ってみよう」


 どうせ他に行くあてなんかないんだ。

 意を決し、俺は地底湖へと向かう。


「凄い透明度だな……」


 地底湖の周辺は発光する藻が大量に発生しており、光り輝いていた。覗き込めば、湖底がハッキリと分かる。


 湖岸を歩いて周囲の様子を探るが、特に何かあるわけでもない。


「やっぱりガセネタだったか」


 そうだろうと予測はしていたのでショックはない。

 ただ、それ以上に疲労と全身の痛みがピークに達していた。


「ぐぅ……」


 膝から崩れ落ちる。

 ここまでなのか……俺は。

 

「ミルフィ」


 死の間際となっても、俺の頭にはミルフィの笑顔が浮かんでいた。

 ――と。


「! あれは……」


 薄れゆく意識の中で、俺は視線の先に光を見た。

 それは周りの藻が発する光とは明らかに別物――もっと神々しい輝きを放っている。俺は最後の力を振り絞って、その光を目指した。もしかしたら、あれが天国の入口なんじゃないか、と考えながら。


 たどり着いたそこには――三つの宝箱があった。


「これ……三種の神器?」


 レックスたちが探し求めていた三種の神器がおさめられている宝箱じゃないか?

 そう思って、開けようとするが……鍵がかかって開かない。


「そりゃそうか……こいつを開けるには相当ハイレベルの解錠士アンロッカーが必要になるぞ」


 宝箱や隠し扉の解錠を生業とする解錠士アンロッカー。うちのパーティーにもいるにはいたが、あの人が開けられるのは解錠レベル10まで。もしこれが本当に三種の神器ならば、少なく見積もっても解錠レベルは間違いなく三桁を越えるぞ。


「どのみち、俺には開けられないか――うん?」


 力尽きかけた俺の目に飛び込んできたのは――台座に置かれた小さな鍵だった。

よく見ると、その鍵には女性の横顔が彫られている。


「まさか……」


 いやいやいや。

 そんな都合のいいことがあるものか。

 この宝箱みたいに、普通の鍵じゃなくて魔力による強固な施錠は、解錠士アンロッカーのみが使える解錠魔法しか効果がないのだ。

 そう考えつつも、「もしかしたら」という淡い期待を抱いて鍵を手近な宝箱の鍵穴に差し込んで回してみると、


 ガチャッ!


「! あ、開いた!?」


 驚きつつ、中を覗くと――そこには赤色のペンダントがあった。

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