絶対無敵の解錠士《アンロッカー》

鈴木竜一

第1話 絶望のはじまりと終わり

※本日5話分を投稿予定!

お楽しみに!




「はあ、はあ、はあ……」


 焼けるような痛みが全身を襲う。 

 俺――フォルト・ガードナーは押し寄せるモンスターから逃げ回っているうちに崖から落ちたため、体中に出血を伴う傷ができていた。幸い、それらは致命傷には至らず、なんとか動けている。

 


 仰向けになって空を眺める。

 間違えた――空はない。

 広がっているのはゴツゴツした岩肌ばかりだ。


俺はこの薄気味悪いダンジョンで仲間から置き去りにされた。


 俺の仲間――Fランク冒険者パーティーは、モンスターに襲われると俺を囮にしてさっさと逃げだしてしまったのだ。


 なぜ、こんなことになってしまったのだろう。


「行かなくちゃ……」


 こんなところでくたばってなどいられない。

 俺にはやりたいことがある。

 それに、果たしたい約束もある。

 あの子のためにも。


「ミルフィ……」


 同じ村に住んでいた幼馴染で片思いの相手――ミルフィ。

 冒険者になろうと一緒に村を出て、近くの町のギルドの紹介で、今のパーティーへ入った。

 リーダーのレックスは何かとミルフィを優遇し、スキル診断もすぐに受けさせた。そこでミルフィは、回復特化型のスキル持つ回復士ヒーラーという冒険者パーティーからすれば大変貴重な存在であることが分かり、重宝されることに。

 それとは対照的に、俺の扱いはドンドンひどくなっていった。

 でも、ミルフィはそんな俺を見捨てず、いつも励ましてくれたし、リーダーのレックスにも抗議していた。

 ミルフィはこうも言っていた。 


「フォルト、お金が貯まったら、このパーティーを抜けて旅に出ましょうね」


 と。


 俺はその言葉を信じて今日まで耐えてきた。

 しかし、ついさっき――モンスターに襲われる寸前、俺はリーダーのレックスたちの会話を耳にして凍りついた。


「さあて、早く帰ってミルフィにおかえりのキスをしてもらわなくちゃな」

「えっ!? リーダーとミルフィってできてたんすか?」

「言ってなかったか?」

「聞いてないっすよ! 俺だって狙っていたのに!」

「ははは! そりゃ悪いことをしたな。……だったら、今晩貸してやろうか? あいつあんな清楚な顔して結構性欲強くてなぁ。持て余していたところなんだよ」

「マジっすか!?」

「お、俺も! 俺もお願いしますよ、リーダー!」

「別にいいけどよぉ、俺のあとだぞ?」


 俺は頭が真っ白になった。

 下卑た笑い声がダンジョンに響き渡り、それを聞いたモンスターたちが襲ってきた。リーダーのレックスは咄嗟に俺のお腹を蹴って、


「フォルト! 俺たちが逃げ切れるまでそこで食い止めていろ! てめぇにはそれくらいしか役に立たねぇんだからな!」


 何もかもがいきなりすぎて、情報整理が追いつかず、俺は逃げていくパーティーの仲間たちの背中を呆然と眺めるしかできなかった。


 しかし、すぐ後ろにモンスターの群れが迫っていることに気づく。


「…………」


 振り返ると、俺は両手を広げた。

 もういい。

 死んでも構わない。

 すべてに嫌気がさした。

モンスターは勢いを止めず、俺は吹っ飛ばされて崖から落ち、今に至る。


 俺は放心状態だった。

 しばらくして、俺は立ち上がる。

 深いダメージは追っているものの、体はなんとか動いた。


「ははは……死ぬこともできないのかよ、俺は」


 自分の無能さに、心底腹が立つ。

弱まっていく体に鞭を打ち、俺は前進する。それが正しい進路かどうかなんて考えは及んでいない。ただひたすらに、目の前の道を進んでいく。


「ミルフィ……ミルフィ……」


 道中、呻くように俺は彼女の名を繰り返していた。


 ――あの子を幸せにすると誓った。

 でも、それはもう叶わない。

 俺はこれからどうするべきなのだろうか。



 どこへ向かうあてもなく、俺はミルフィの笑顔を思い浮かべながら、深いダンジョンをさまよい歩く。

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