第6話 セカンドチャンス


「なあ小南、お昼一緒に食べないか? 何なら奢るぞ?」


「奢る?」

 昼休み、チャイムが鳴ったすぐ後に俺は小南の席を訪れた。

 小南は昼休みになるとすぐに学食へ行く。特定の誰かと一緒に行くということはせず、一人で学食へと向かうのだ。そして学食にいた誰かと一緒に食べる。それが小南美波の昼食の取り方だ。

 彼女の社交性があってこそできることである。


「そうだ、デザートくらいなら奢ってやるぜ」


「ケチだなー」


 じとりと恨めしそうに小南は俺を睨む。

 しかし。


「まあいいや」


 そう言って、小南は席から立ち上がった。


「一緒に行こ」


 笑って、小南は先導するように教室を出ていった。それを俺は後から追う。

 一年のクラスは四階にあるので食堂からは少し遠い。校舎の二階から体育館に続く連絡橋があり、そこから降りると、体育館の下にある食堂に辿り着く。


「桜木は食堂使う人だっけ?」


「いや、俺にはこの通り」


 言いながら、俺は右手で持った巾着を見せつけるように突き出した。

 それは朝に奏乃が作ってくれた弁当だ。俺はいつもこの弁当を教室で食べている。弁当がない日もコンビニで買って教室で済ますことがほとんどだ。つまり、食堂を利用することはほぼない。


「ならどうして?」


「決まってるだろ。小南と一緒にお昼を食べたかったからさ!」


 バッチリ笑顔が決まった。

 と思ったが、小南は何故か疑うような眼差しを向けてきた。


「それはあれかな、今朝の冗談の続きかな?」


 ふんと鼻を鳴らして小南は言った。

 俺の朝の愛の告白を、小南はあろうことか冗談だなどと言って済ませてしまったのだ。俺は本気で言ったというのに。


「冗談だなんて言ってないだろ?」


「じゃあ本気?」


 小南は小柄なので、俺の顔を見ようとすれば必然的に見上げることになる。その上目遣いの破壊力は確かなもので俺のライフポイントを大きく削ってくる。萌えの弾道ミサイルと言っていい。


「ももももちろん本気だ」


「動揺しちゃって」


「本気だと言っているんだが?」


「うん、じゃあ信じるよ。桜木は冗談を言う人だとは思っているけど、嘘をつく人だとは思ってないからね」


「返事は?」


「聞きたい?」


 小南は俺を試すように、挑発的な視線を向けてくる。


「も、もちろんだ」


「そっか。聞きたいか」


 言って、てててと数歩先に駆けていく。小南はくるりと回って俺の方を向いた。


「でも、まだ教えない。せっかくだからデザートを奢ってもらってからにするよ」


「それはあれか、振るとデザートを奢ってもらえなくなるからか?」


「別にそういうのじゃないけど」


 俺が歩いていると小南に追いつく。そこで小南はくいっと身体を乗り出して、俺の顔に自分の顔を近づけた。


「キミの本気度を確かめようかなって思ってね」


「……確かめるまでもなく、もう限界値突破してるけどな」


「あはは、それは冗談だね」


 そんな話をして、俺と小南は食堂にたどり着いた。

 注文を済まして空いている席を確保する。小南はきつねうどんに加えてプリンパフェを追加注文していた。しっかりといい値段のものを注文しやがった。


「そういえば」


 うどんをすすりながら思い出したように小南が言った。


「なに?」


 俺は弁当を広げながら返事をした。

 たまご焼きにハンバーグ、野菜と彩りと健康のバランスが考えられた弁当の内容だ。毎日毎日よく作ってくれるもんだよ。


「奏乃よかったの? いつも一緒にご飯食べてない?」


「たまには食べるけど、いつも一緒ではないよ」


 普通に別の友達と食べたりもする。奏乃だって友達他にいるしな。小南とも食べたことあるだろうに。


「今日は?」


「さあ。誰かと食べてるんじゃないか?」


「かわいそうだなあ」


「そういう日だってあるだろ」


「そういう意味じゃないんだけど」


 言いながら、小南は残りのうどんをかき込んだ。そしてお待ちかねとでも言わんばかりの笑顔でプリンパフェを自分の前に置く。スプーンでプリンを掬って目の前に持ってきてキラキラとした瞳で見つめる。


「そう言えば、さっきの告白の返事……しよっか?」


「お、おう。急だな。俺の本気度は伝わったのか?」


「いや、まあ本気がどうかっていうのはほんとのところ問題じゃないんだよ。どれだけ本気であっても私の答えは変わらないからね」


「……それはつまり」


 俺が希望の眼差しを向けると、小南はにっこりと笑う。


「うん……ごめんなさい」


 しっかりと振られた。

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