第3話 さすが魔王の娘

 西の方角へ向かい、盗賊の所在を探ることにした。まずは索敵し情報を得なければならない。


 人の通りがないとみて、シャーロットはフードを脱いだ。耳の上には、羊のような捻じれたツノが生えていた。魔人族であるという証。それを隠さなくてならないのだから、シャーロットとしては苦痛であろう。

 人目を気にしなくてもすむ時代がくればいいのだが。


 奥へと進んでいくと、幾人かの足跡を発見した。周囲を見渡す。村人が通るような場所ではなく、獣道だ。盗賊どもが通った跡と断定していいだろう。

 しゃがみ込み、詳しく観察した。この足跡はまだできたばかりだ。歩幅も大きく、スピードも速い。体力のある若い連中だろう。

 足跡を辿っていったが、途絶えていた。残っていないのではなく故意に消したのだろう。中々の手練れだ。連中の中に、戦争に従事した者がいるのだろう。


「足跡、なくなちゃってるね」

「ここから探ろうと思ったが残念だ」

「いるとしたら、どんなとこにアジトを構えていると思う?」

「人里から離れており、しかし離れすぎておらず、水辺の近くといったところかな」

「そんなとこいっぱいありそうだね……。まず川を探さないとね」

「そうだな」

 シャーロットがフードを被りなおすと、キートンたちは歩き出した。


 足跡などの通った痕跡を見つけ、そこから追わなければならない。連中も手馴れているため、少々骨が折れそうだ。ポイントポイントを潰し、絞りこんでいかないといけない。


 日が暮れてきた。


 さっさと痕跡を探した出したいところだが、夜の山は危ない。潔く今日は諦め休んだ方が良さそうだ。

 シャーロットと手分けし枝を集めると、火を起こした。腰を下ろすと、水分を取り干し肉を食べた。今日のディナーだった。

 寝床を用意すると、水浴びしたいと愚痴をこぼしながらシャーロットは先に眠りについた。


 キートンは木に背を預け、左足を伸ばし右足は膝を立て、そこへ右腕を置いた。大きく息を吸い、ゆっくりと息を吐いていく。キートンはとてもリラックスしていた。

 どれくらい時間が経っただろう。ゆらゆら揺れている焚火から、シャーロットに目を向けた。寝息を立て、フードを被りながら眠っている。眠る時は無防備になるため、シャーロットはフードを被ることにしていた。


 シャーロットとの旅が始まり、二か月ほどが経った。


 自分が思っていたよりも居心地が良く、今までの旅とは違った趣があった。

 シャーロットもキートンのことを信頼し、安心しきっていた。寝顔を見せるくらいである。勇者で、シャーロッは魔王の娘だというのに。殺されるとも、襲われその身を穢されるとも思っていない。

 その信頼感が、キートンも心地よかった。不思議な関係だが、楽しさが勝っていた。


 だが、しかし、とも思う。


 楽しくてもいいのだろうか? 

 魔王を倒したことにより戦争が終わったが、獣人族や魔人族は迫害され、貧富の差は拡大した。時代に影を落とした。

 呑気に過ごしていていいものだろうか……。それに、シャーロットとの関係は他の者から見ればいびつなのかもしれない。彼女の父親を殺したのは、他の誰でもなくキートン自身なのだ。


 キートンは首を振った。


 思考を振り払った。答えの出ない問いかけだ。少なくとも今はまだ答えを出せない。考えていても仕方がない。そう思うことにしよう。


 キートンはシャーロットのそばにある弓に目を向けた。

 左腕がないため、キートンには扱えない。あれはシャーロットの弓だった。先ほど弓矢を補充したのはシャーロットのためだった。幼い頃から、魔国で剣も弓も稽古してきたらしい。もっとも才があったのが弓であった。武の稽古も積んできたとは、さすが魔王の娘。

 旅の中で何度か戦いもあった。それこそ盗賊に襲われたこともあった。躊躇うことなく、甘さもなく弓を向ける。生きるか死ぬかの勝負をできている。さすが魔王の娘。

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