第2話 ほっとため息

 道具屋の前にあるベンチで休ませてもらうことになった。軽食とティーを頼んだが、お代はけっこうだと言われた。店主の心遣いだった。


「けっこう歩いたから、疲れたね」

「だな。前はこんなこともなかったが、俺もだいぶ衰えてしまった」


 戦時中はジャングルや砂漠地帯、積雪地帯を駆け抜けていた。殺し合いをしていたとはいえ、現在では考えられない体力を持っていた。今は文字通り衰えてしまった。腕は枯れ木のように細く、足腰もあまり踏ん張りが利かない。

 戦争が終わった直後は、精神に変調をきたしクスリをしていたこともあり、筋力も衰え体を駄目にしてしまった。だがこうして旅に出てに戻ったというのに、一向に回復する見込みがない。正常に戻ったと思っているだけで、あの頃から何も変わっていないのだろうか? 魔王の呪いだというものもいるが、もしくはそうなのかもしれない。

 キートンは自分の右手を開いては閉じ、それを眺めていた。


「私からすればね」

 とシャーロットは言った。

「キートンさんはあの頃から何も変わっていないよ」

「そうかな」

「むしろ何も成長してなくて駄目だなって思ってるくらいだもん」

「言ってくれるな」

 キートンが笑うと、シャーロットは白い歯を見せた。


 シャーロットはティーカップを両手で掴むと、一口飲んだ。唇からカップを外すと、ほっとため息をつく。

「美味し……」

 キートンもティーを飲むと、あたりを見渡した。


 貧しい村だった。店主が言っていた通りだった。

 人々に活気はなく、どんよりとした空気感がある。子供たちは駆けっこをし遊んでいたが、身に着けている衣服はボロボロでサイズも大きかった。服を買えるお金がないため、お下がりを着ているのだろう。


 なのに、なけなしの物資を盗賊どもが奪っていく。


 藁にもすがりたい思いだろう。フーゴの村を通りかかったのも、何かの縁かもしれない。

 盗賊たちは山の中を根城にしているらしい。西の方角。キートンは顔を向けた。


「ごめんね、勝手に依頼受けちゃって」

「勝手という自覚はあったんだな」

「ランスって街に向かう予定だったんだよね?」

 ランスはここら一帯を治めている藩主がいる街だった。それゆえ大きいらしいが、キートンも訪れたことがないため詳細は知らなかった。街は潤っているのか、忘却武人な藩主なのか、それとも無能をさらけ出しているのか。

「ああ、そうだな。だが、別にいいさ。急いでいるわけじゃないし、こうしてティーを飲むこともできている」

 キートンはカップを軽く掲げた。


 休憩を取り、軽食もティーもすべて腹に収めてた。


 そろそろ出発しようとしていると、一人の男の子がトコトコとこちらにやってきた。

「ねー」

「ん、なんだ」

「おじさんたち、旅人さんなのー」

「…………」

 おじさんという言葉に引っかかってしまった。そんな年齢ではないが、よく言われてしまう。それほどまでに老けて見えるのだろうか……。


「お、俺はまだおじさ――」

「そうだよ! おじさんたちは旅をしているんだ!」

 訂正しようとしていると、シャーロットが身を乗り出し遮った。目を細め笑顔を浮かべ、至極楽しそうだった。

 そっちがその気ならお返しである。

「そう旅をしている。だがもう、おじさんとは行くよ。じゃあな」

 シャーロットとから笑みが消え、キートンに冷たい眼差しを送っていた。

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