第18話 計画
焼死体のそばに跪き、涙を流していると、エンニオに呼ばれた。だがキートンに反応する余裕はなかった。
なかば強引に腕を引っ張られ、ひとけのないところに連れていかれた。兵士たちは、なんだなんだとざわついていた。
「すまんな、キートン……」とエンニオが言った。
キートンは涙を拭い、喉を整えるため咳払いをすると、
「別にエンニオが悪いわけじゃない」と言った。
「違う、そうじゃないんだ、そうじゃ……。実は彼女は生きているんだ。あれはシャーロットではない」
キートンは顔を上げ、エンニオを力強く見た。
意味がよく解らなかった。衝撃で思考能力は失われていた。何故か、キートンはあたりを見渡した。
「本当、なのか」
エンニオは黙って頷くと、事の次第を説明された。
キートンが牢屋から出たあと、エンニオはシャーロットのところに向かい、こう提案した。君を死んだことにして、ここから出そう、と。
計画はこうだった。シャーロットを外に出し脱走を装うと、エンニオは追いかけるふりをする。これを見た周りのものは、シャーロットが脱走したと考えるだろう。針金や削ったクギも用意して、バックストーリーも用意しておけば、まさに完璧だった。
そして、シャーロットはあの小屋に逃げ込んだふりをする。エンニオは兵士たちに慎重にいくぞと言い、突入させない状況を作った。そのあいだにシャーロットは火を放つ。
あの小屋には、事前に火種と油が用意されていた。それとダミーになる死体も。この死体は、特別に安置所から持ち出したものであった。スラムの出身で、どこにでもあるような身元不明の死体であった。
燃えてしまえば顔は判別できなくなるが、シャーロットには特徴的な角があった。焼死体に角がなければ別人だと見破られてしまう。しかし、シャーロットの角は髪の毛でできていた。燃えてしまえば跡形もなく燃え尽きてしまうのだ。よって焼死体に角がなくても怪しまれることはなかった。
そして火を放ち、それを確認したエンニオは備品回収を装い、シャーロットにシーツを被せ外に運ぶ。皆は火の上がった小屋に気を取られているし、不審に思われることはなかった。
こうしてシャーロットの自殺を装った。誰も偽装とは気づかなかったはずだった。
この偽装は、エンニオ一人が計画したわけではない。幾人かの貴族の協力もあった。
そもそも帝国は、シャーロットの処遇を決めかねていた。牢から出すのを反対している者もいたし、処刑しろという過激な者もいた。
だがその幾人かの貴族だけは考えが違った。外に出してやってもいい、処刑なんてもってのほかだと考えていた。
そこでこの計画を思いついた。だが確かに、彼女を野に放つ恐怖もあった。魔国に戻り、反帝国の組織に加わるかも知れない。
だが勇者のもとにいるのなら話は変わってくる。聞けば勇者との仲も悪くないらしい。
そこでエンニオは、面会が終わり建物から出てきたキートンに、シャーロットとの仲を聞いた。
そしてシャーロットには計画のことを話し、どうするかと訊ねた。シャーロットは、あの人と一緒に旅をしたいと答えた。帝国に怨みなんてないし、あの人にも怨みないてないと。
こうして計画は実行された。
「だが準備に手間取って、お前の返事を聞いてなかったよ」とエンニオは申し訳なさそうな言った。「キートン、彼女を連れて、一緒に旅をしてやってくれないか?」
「思い出になるにはまだ早いか……」キートンは呟いた。
「え?」
「なんでもない。引き受けるということだよ」
「そうか! なら安心できたよ。では明朝、西門から帝都を出たところで、彼女を待たせておく」
「解った」
シャーロットとの旅かとキートンは考えた。あまり想像はつかなかったが、悪くはなかった。
酒にも、つまみがあった方がいい。つまみ扱いすれば、彼女は怒るだろうか?
立ち去る間際、親友はこんなことを言った。
東にある、とある島国の作家は、こんなことを言っていた。その国の人間は、感心する言葉をたくさん持っていて、いつも俺の胸を響かせてくる。
罪がなければ、旅する楽しみもない。
エンニオは、お前たちにぴったりだなと言って笑った。
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