第17話 出発

 机に置いていた、飲みかけのシードルが朝日で金色に輝いていた。気がつけば朝だった。なにがあっても、朝は訪れるらしい。


 余っているシードルをぐいっと飲み干すと、一階へ降り、店主に礼を言い宿を出た。宿泊代は先に払っていた。店主は、丁寧に頭を下げてくれた。


 早朝のお日様というのは綺麗だった。

 帝都に澄んだ光を指していた。しかし、泡立つほど肌寒く、鼻先は妙に冷たくなっていた。吐き出す息も白かった。


 キートンは歩き出した。早朝であるから、帝都といえどひとけはあまりなかった。少し寂しい気もしたが、やはり静かな方が好みだった。

 大きな門をくぐり、キートンは帝都を出た。門の外には、二人の衛兵が立っていた。人形のように動かなかったが、人形ではなかった。白い息を吐いていたからだ。


 キートンが歩き出すと、お気をつけて、旅の人と衛兵が言ってくれた。キートンは振り返り、手を挙げありがとうと言った。やはり人形ではなかった。


 そこは普通の砂道に、左右に木々が生えているだけの、なんの舗装もされていない道だった。門の中は綺麗に整われていたが、外に出れば関係はないらしい。人も都市も内だけでいいわけがないのに。


 じゃりじゃりと音を鳴らしながら歩いていると、右前方の木の下で何者かが立っていた。フードを被り影になって表情はわからなかったが、白い息を吐き出しているのは分かった。

 キートンはその人物に近づくと言った。


「さあ行こうか、“シャーロット”」


 シャーロットはさっと顔を上げた。その顔はとても輝いていた。朝日にも負けやしなかった。

「ええ、行きましょう!」とシャーロットは元気よく言った。

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