第15話 死亡報告
キートンは帝都(まち)の宿に泊まることにした。
それはどこにでもあるような宿だった。コメントも浮かばないような宿だった。
ただ働いている娘たちは可愛らしかった。それが唯一の取り柄だった。
買ってきたシードルを開けると、ベットに座り込んだ。吐息を一つつき、二口シードルを含んだ。爽やかな口触りだったが、少し甘かった。発酵が足りていないようだった。
キートンはもう一口飲むと、ベットに横たわった。視線の先には天井があった。天井もまた何の取り柄もなかった。ところどころ黒ずみができているだけだった。黒ずみは取り柄とは言わなかった。
キートンは、明日もシャーロットのところに行こうかと考えた。もっと彼女に旅の話をしてやってもいいだろう。
そして、内緒でこのシードルも持っていてやろう。たまには酒くらいいいだろう。酔おうが素面だろうが、檻からは出られないのだから。
扉がノックされた。気持ちのいい音だった。ノックの音というのは、どうしてこうも気持ちがいいのだろうと思った。キートンはどうぞと言った。
この宿の店主が扉を開け、中に入ってきた。ぺこりとお辞儀をすると、夕食は部屋で食べるのか、それとも下の酒場で食べるのかと訊かれた。
キートンは部屋でいただこうと言った。かしこまりましたと店主は言い、頭を下げ扉を閉めた。
もう一つ、この宿に取り柄があった。店主の所作すべてが正しく、綺麗だった。気がつけば、どこにでもあるような宿ではなくなっていた。
また扉が叩かれた。今度は乱暴だった。そして、返事をする前に扉を開けられた。これらの行いで、店主ではないことは解った。
そこにいたのは兵士だった。肩で息をし慌てた様子だった。
キートンは身を起こした。
「どうしたんだ?」
兵士は息を整えると言った。「ご報告することがあります」
「なんだ?」
「シャーロットさまが、お亡くなりになりました……」
キートンは息を詰まらせ、ベットの上にシードルの瓶を落とした。
突然の言葉だった。兵士に嘘をついている様子はなかった。
こぼれたシードルがシーツを汚していく。目の前が歪んでいく。兵士の顔がぼやけていく。
酒で熱くなっていた頬が、冷たくなっていった。
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