第2話 騎士団

 男はキートンのそばに来ると言った。「よお、久しぶりだな。手紙に書いてあった日にちより、一日ばかり遅かったけどな」

「すまない。予想よりも遅れてしまった」

「へ、バカ、冗談だよ。無事でなによりだ。会えて嬉しいぜ、キートン」

「ああ、俺もだよ、エンニオ」


 キートンは笑みを見せた。エンニオもにやりと笑った。

 キートンとエンニオはハグをした。鎧の冷たくて固い感触だった。

 エンニオはキートンの親友であり、騎士団長さまでもあった。戦時中は騎士団の一兵隊であったが、一番の活躍を見せ、この地位まで上り詰めた。戦闘能力は非常に高い。槍を巧みに扱い、もし今エンニオとやり合ったとしても、結果は目に見えていた。


 エンニオはキートンから体を離すと、

「帝都に来た本題の前によ、ちょっと寄り道していかないか?」と言った。

「寄り道?」とキートンは訊ねた。

「ああ。みんなに会ってやってくれよ」

「騎士団の連中に? 別に構わないが」

「よし、そうこなくちゃな。今の時間は鍛練に励んでいるんだ。行こうか」


 エンニオはとても嬉しそうにしていた。感情が分かりやすいやつだった。キートンはそんなエンニオに好感を抱いていた。腹が見えないよりかは幾分も良い。


 城門をくぐり、中に入っていった。騎士団の営舎は、門をくぐった向こうにあった。お城のお膝元に備えられている。それだけ、帝国にとって騎士団は重要なのだ。番犬は近くにいた方がいい。

 営舎も白銀であった。手入れが行き届いているようでピカピカしていた。営舎の前にはグランドがあり、そこで騎士たちは鍛錬に勤しんでいた。


 キートンはエンニオと営舎の前で並び、見ていた。模擬戦をしているようである。やはり皆、レベルが高かった。テクニックもあり、体力もあり、根性も充分にあった。帝国がお膝元に起きたい気持ちが解る。

 見知った顔も何人かいた。だが覚えている顔とは少し違っていた。傷ができていたり、耳がなくなっていたりしていた。キートンに気がつくと手を振った。キートンも振り返した。


「あいつを見てやってくれ」とエンニオは指差した。

 その先には、まだ若い騎士がいた。軽装の鎧で身を包み、木の棒を持って模擬戦を行っている。誰よりも真剣で無垢な眼差しをしていた。それは若さゆえかも知れなかった。

 どうやら、エンニオと同じく槍を扱うらしい。体も柔らかく、俊敏な動きをしていた。才能があるのはすぐに解った。


「あいつの名前はグレッグ」とエンニオは言った。「まだ十七と若いが、なかなかやりやがる」

「確かにフットワークも軽いな」

「だろ。うちのホープだよ。まだ殺し合いはしたことはないが、強い。俺と同じく槍を使うんだ」

「それはエンニオに憧れて?」とキートンは言った。

 ほんの冗談のつもりだったが、実はそうなんだよと言った。

「俺に盲信しているが、駄目なところなんだよ」とエンニオは言う。

「憧れるね。なるほど、お前のすぐ女を口説くところに惚れたんだな」

「違いない」


 エンニオはふふっと笑った。少し照れているようであった。キートンはエンニオの顔を見て、先ほど買ったリンゴを思い出していた。


 そのあと、エンニオは騎士たちを集めた。キートンたちの前に何列かになりズラリと並んだ。数は、五十くらいであろうか。皆、誇りに満ちた目を持っていた。

 あのホープ、グレッグは列の前におり、キートンに突き刺さるような鋭い視線を向けていた。さすが槍使いである。


 エンニオは、嬉しそうに語気を強めキートンを紹介した。まるで我が子を自慢する父のようであった。

 勇者であると知ると、幾人かの騎士たちはざわめいた。キートンはこの場から立ち去りたい気持ちになっていた。言わないでくれと釘を刺しておけば良かった。


 エンニオは言った。

 ──キートンはあの戦争の英雄だ。こいつがいなくちゃ、まだ戦争は続いていただろう。騎士団長である俺より、確実に強いんだぜ!

 親友の好意は嬉しいが、やはり逃げ出したかった。

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