第27話 洋館での悲劇

 洋館についた頃には雷が鳴っていた。


 中は暗かった。灯りがついていないようだ。エントランスホールにあるはずの黄金の鎧も、輝きが失われていた。

 その時ぴかりと洋館の中が光った。黄金の鎧も光った。そして、一瞬だけだが見えた。ホールの真ん中に、人が倒れていた。


 キートンは急いで駈けて行くと、腰を落とした。

 それはアンだった。正確にいえば、アンをなしていた肉体があった。アンは死んでいた。喉から赤黒い血を漏らし、口からも血が垂れていた。涙を流し、キートンを見つめている。だがその目にはもう、キートンは映っていない。


 鋭利なもので喉を切られたらしい。右手で血を触ってみると、まだヌルヌルとしていた。固まってはいなかった。もう少し早ければ、結果は変わっていたのかも知らない。

 キートンは、わなわなと震わせていた拳をふっとほどくと、アンの目を閉じてやった。涙も拭った。


 階段を登ったところで、グレタが倒れていた。かすかに体が動いている。腹から血が吹き出ていた。グレタは震える両手で腹を押さえ、虚ろな目をして、なにか声を漏らしていた。

 キートンはしゃがみ込むと、急いで腹を押さえた。どくどくと血は止まることなく溢れ、とても温かった。キートンはもっともっと強く押さえた。


 グレタはお腹から右手を離すと、ラルサンの寝室の方へ指さした。声にならない声でなにか言っていた。そして右手をぽとりと床に落とした。グレタの体から力がなくなっていった。左手で押さえていた部分から、一気に血が漏れ出した。


 キートンは右手を離した。

 グレタの目蓋に右手を持っていくと、閉じてやった。右手は血濡れていたから、グレタの顔は赤くなってしまった。

 雷が鳴った。あたりは一瞬だけ白くなり、グレタの赤い顔も白くなった。そしてまた雨の音が聞こえてきた。


 キートンはラルサンの部屋へ向かった。扉は開いていた。


 デボラはラルサンの背中に乗り、両手で包丁を持ち、何度も何度もラルサンの背中に突き刺していた。その度に肉が裂ける音がして、血を飛ばした。しかしラルサンはぴくりとも動かなかった。

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