第24話 少女の夢

 辛くて長い旅を、ラルサンは経たのだ。話を聞いて、キートンも同じ経験をしたように感じた。

 だがそれが錯覚だということはよく解っていた。本当のところはなにも解っていないのだ。ラルサンの痛みも感動も、なにも。


「長々とすいませんでした」とラルサンは言った。目は落ちくぼみ、生気が感じられなかった。

「いや、話してくれてありがとう」とキートンは言った。

 ラルサンは薄く笑った。

 どうしてラルサンが、魔人族と獣人族の奴隷を飼い、暴力を振るっているのか解った。怨みをぶつけているのだ。少しでも心の病を晴らすために。その気持ちは、キートンにも理解できた。


「しかし、ラルサン」

 キートンは、ラルサンの目を見据えた。

「なんです」

「獣人、魔人を憎んでいるのは理解できる。しかし、それは当てつけだ。あの娘らがなにかしたわけじゃない」

「…………」

「綺麗事を言ってるかも知れんが、ラルサンが復讐を果たしたように、いつか君自身も報いを受けることになるぞ」


 ラルサンはなにも言わなかった。ふらふらと立ち上がると、おやすみなさいを言い、部屋から出ていった。


 キートンは一人、佇んでいた。


 先刻の言葉は愚問だったのかも知れない。ラルサンだって気づいているはずなのだ。だが内にある憎しみや怒りや不安を、暴力で発散しなければ自分を保てないのかも知れない。だから阿片も吸うのだ。

 結局のところ、うだうだとあれやこれや考えていても、友にはなにもしてやらないのだ。


 キートンは部屋を出た。いい夢は見れそうにもなかった。


 キートンは眠りにつくと、夢を見た。


 草原の中に、魔人族の娘がいた。二十歳くらいの娘だった。髪は眩しいくらいの金色で長かった。そして羊のような捻れた立派な角を持っていた。

 娘はキートンを見つめると微笑み、まるで誘(いざな)っているかのように走り出した。キートンも走り出した。綺麗な髪がキラキラと光り、彼女の匂いが感じられた気がした。


 キートンが掴まえると、また微笑むのだ。キートン自身の顔は、影ができているかのように暗く、解らなかった。同じように笑っているのか、それとも悲しげな表情を浮かべているのか。

 だからその夢は、キートンにとって良い夢なのか、悪い夢なのかは解らなかった。きっと誰にも解らないのだろう。

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