第5話 内通者

 翌日、朝食をいただいている時、キートンはアルバのお父さんの話をした。アイツが戦場ではどんな奴で、幾つアイツに命を救われたか、そして幾つ救ってやったか、色々なことを話した。アルバは嬉しそうに笑いながら父の話を聞いていた。お父さん、そんなことを言ってたんだぁと、楽しそうに言っていた。


 その時、外からうっすらと、子供の甲高い声が聞こえてきた。それが近づいてきたかと思うと、間もなくして窓ガラスが割れた。

 アルバはきゃっと悲鳴を上げ、キートンは咄嗟に身構えた。部屋の中にガラスの破片が散らばり、そこに石ころが一つ転がっていた。こいつで割られたのは明白だった。


「ケモノ女が〜、早く村から出ていけやがれ〜!」


 と甲高い声が聞こえたあと、クスクスと子供たちの笑い声が聞こえてきた。そして、はしゃぎながら走り去っていった。


「もう、お客さんがいるのにやんなっちゃうな」

 アルバはバツが悪そうに笑うと、壁にかけてあったホウキで掃除を始めた。身の丈にあっていないホウキだった。

 キートンはアルバに右手を差し出した。

「……なに?」

「怪我をするかも知れない。俺がやろう」

「いいよ、別に」


 アルバがどうしてもホウキを渡してくれなかったので、キートンは一緒になって掃除をした。

 ガラスを片付け終わり、朝食を終えると、アルバは仕事に行くと言った。親もいず自分一人であるから、食い扶持を稼がなくてはならないのだ。昨日の行商人の手伝いも、その一貫だろう。


 キートンは宿泊の礼も兼ねて仕事を手伝うことにした。

 仕事というのは、穴を掘り、土をふるいにかけ砂金を採掘することだった。

 採掘場所は村から近い山辺だった。至ることに大きな穴が掘られ、その中に大の男が入っていた。穴から頭部が出たり隠れたりしている。ツルハシを振るっているのだ。


 キートンも穴に入り、アルバと共に掘っていく。しかし、それはとてもとても辛い作業だった。ツルハシで穴を掘っていくのだが、思うほど掘れず力もいる。終わりの見えない作業だった。

 特に子供には酷な仕事だろう。アルバは汗水を垂らしながら懸命に掘っていた。子供でこんな作業しているのは、アルバだけだった。そもそも子供がやるような仕事ではない。


 キートンはポンチョを右半分だけ捲ると、ツルハシをまた振るい始めた。

 そうしていると、

「おい、旅人さんよ、ちょいっと来てくれねえか」

 と一人の村人に呼ばれた。キートンはツルハシを地面に置くと、穴から出た。こっちだと手招きされ、そこに向かった。


 穴から少し離れたところに、三人の村人がいた。真剣な表情で、キートンを見つめている。汗と粘土のキツいにおいがした。


「用でも」とキートンは訊いた。

「あらためてお願いがあるんだ。盗賊退治の話、もう一度考えてみてくれねえかな。村長はああ言っていたが、もう限界に近いんだ、こうも物資を奪われちゃあ」

「退治、ねェ」

「もちろん報酬はちゃんと出す! いやあまり多くはだせないが……、でも旅人なら申し分ない額だ。退治が無理なら、奴らを探ってくれるだけでもいい」

「探る? 次の襲撃がいつか知るために」

「それもある。それもあるが――実は、この村に盗賊共と繋がっている奴がいるみたいなんだ」


 キートンはぴくりと眉を動かした。「内通者ということか」


「ああ、そうなんだ。まるで出荷の日を全て知っているかのように、荷馬車が尋常じゃない頻度で襲われるし、昨日みたいに人の数が少ない時は決まって襲われる。そして護衛をつけている時は絶対に襲われねえんだ。村にも用心棒を雇い、全ての荷馬車に護衛を付けてえが、そうすると莫大な金がかかる。八方塞がりなんだよ、俺たちゃあ」


 キートンは右手を顎に当て、考えた。そんな姿に手応えを感じたのか、村人は嬉しそうにキートンを見つめていた。


「俺ゃあ、あのケモノだと思うけどね、内通者は」

 一人がそう言うと、他の者もそうだそうだと声を揃えた。

「ほう、それはどうして」

「いいか、だってあの盗賊共は、アルバと同じ獣人族だ。アルバと繋がっていても、誰も驚きやしねえよ。やっぱりな、ってなもんだ。内通者だとしたらまあ、あいつの皮を剥いでお洒落な服を作ってやるがな。ケモノだけに」


 他の二人はケタケタと笑い、腹を抱えた。

 キートンはもう一度顎に手をやり、考えにふけった。そしてまもなくして口を開いた。


「よし、やってみよう、討伐も折を見てできそうなら」

「本当か!? やったぜ、これで安心して眠れる!」

 三人の村人は抱き合って喜んでいた。

「もう幾日かこの村に留まることになるが、それはいいか」とキートンは言った。

「それはもちろん! アルバの家に泊まってるんだから村長もなにも言わねえさ」

 村人らは感謝の言葉をもう一度述べると、意気揚々と帰って行った。これで問題は解決したと思っているらしい。


 キートンは仕事場に戻ってくると、アルバにもう何日か泊めてもらえるかと訊いた。するとアルバは飛びっきりの笑顔で、いいよと言った。

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