第2話 盗賊との戦闘
「なんだおめえ」
「剣を納めてどっかいくんだ。そうしたら見逃してやる」
「なにい、おまえ死にてえのかッ! そこをどきやがれえ!」
「子供だっているんだ。それにお前らだって命は惜しいだろう」
「状況を見てもの言えよてめぇ、おれゃ何も冗談を言ってるわけじゃないんだぜ」
「ああ。俺もだよ」
「ほう。覚悟があるってこったな」
盗賊たちは数歩下がると剣を構えた。その眼光は鋭く、盗賊共も覚悟を決めている様子だった。
キートンは右手でポンチョをめくり、右半身をあらわにした。白いシャツに茶色のベストを着込んでいた。服の上からでも痩せているのが解った。
「その細え体、叩き切ってやりゃあ!」
バンダナの男が剣を振り上げ突っ込んできた。それと同時にキートンも一歩踏み出すと、男の顔面に鋭い右を入れた。かくんと顔が跳ね上がり、鼻血を飛ばす。そのまま右手で男の襟元を掴むと、キートンは即座に後ろを向き背を丸め、男を投げ飛ばした。衝撃でどしんと地面が鳴った。
もう一人の盗賊も、同じように剣を振り上げ突っ込んできた。キートンはそれを左にかわした。勢い余って横を通り過ぎようとしているところに、キートンは盗賊の顔面を掴んだ。そして力の応用で、まるで棒がこてんと転ぶように後ろへ倒し、そのまま勢い良く後頭部を地面に叩きつけた。これまたどしんと鳴った。
残った盗賊の一人が、クソう! と声を上げ切りつけてきた。キートンは後方へジャンプし、剣をかわした。
その時、ポンチョが肩までめくれ上り、全身をあらわにした。
投げ飛ばした盗賊二人がふらふらと立ち上がり、キートンを見ると、驚いたような表情をみせた。
キートンが予想よりも強かったからではない。キートンに左腕がなかったからだ。右腕一本だけだった。
盗賊たちは歯を食いしばり、悔しさを剥き出しにした。痩せこけた右腕一本だけの、それもたった一人にいいようにやられてしまったのだ。特にバンダナを巻いている男の怒りは凄まじかった。
「降参しろ」とキートンは言った。
「舐めてんじゃねえぞ……! このままむざむざやられてたまるかよ」
バンダナの男は怒りを滲ませながら言う。だが他の二人は勝てるわけがねえよと諌めていた。ここは逃げようと提案している。
「馬鹿が、このまま終われるか! こんな右腕一本の野郎に」
バンダナの男は剣を構えた。
キートンは腰についた剣を抜くと、
「俺がまだ、剣を抜いていなかったことを忘れないでくれよ」と言った。
バンダナの男は一瞬、怯んだような顔を見せたが、勇気を振り絞り、叫び声を上げ切りついてきた。出さなくてもいい勇気だった。
キートンは剣を強く握りしめると、刃に目がけて斬撃を入れた。すると、相手の剣は枝のように折れてしまった。大きく刃こぼれしていたのを、キートンは見逃さなかった。折れた刃は勢い良くクルクルと回り、木の幹に突き刺さった。
「今度はその体を切りつけてやるぞ」
恐れをなした盗賊共に、キートンは言った。すると、覚えてやがれとお決まりの言葉を吐きながら、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
キートンはふうと一息つくと、剣を納め、捲れあがったポンチョを直した。血を流さずに済んでよかった。
「あんたすげえな!」と行商人が目をキラキラさせながら言った。「一人で撃退しちまうなんて、しかも傷一つ負わずに」
アルバも驚いたようにこくこくと頷いていた。すごいと呟いていた。
「本当に助かったよ、荷物を取られちゃ俺たち家族は路頭に迷ってたよ。あんた名前はなんていうんだい?」
「キートンだ」
「そうか、キートンか。キートン、ありがとうよ。
ああそうだ! なにか恩返しをさせてくれよ。大したことはできないけど、あんた見たところ旅人だろ? 良かったらうちの村に来て泊まっていってくれよ! 貧しい村だけど、歓迎するぜ」
「村の名は?」
「セルピコって村だ」
「セルピコ……」キートンは考える素振りを少し見せたあと、「では村にお邪魔しようかな」
「よし、そう来なくちゃ」
行商人は馬に繋がれたロープをぱちんとしならせ、進もうとした。それを、キートンは声をかけ呼び止める。
「なんだい?」
「もう一つ頼みを聞いてもらってもいいかな」
「ああ、いいぜ」
キートンはアルバの方をちらりと見ると、
「この子を荷台の上に乗せてやってくれ」
行商人は、渋い顔をした。
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