第3話



「まて前夜!」

 五十嵐いがらしの制止もきかず、前夜はハーメルの色は青、これなら…


 そう思った瞬間だった。 

 かみなりの音がごとく弾けるような爆発音がしたと同時に前夜の脳天めがけて、隊長こと夜神の手刀しゅとうがゆっくりと落とされた。


「コラコラ感情が制御できなくなるのは前夜の悪いくせだぞ」

 夜神は怖さの欠片もない落ち着き払った声音こわねで前夜をそう注意した。



「やっぱり隊長は化け物ですね、ほら見てくださいよー 隊長の足跡が地面に」

 ケースケは苦笑いをしながら地面を指差した。

 乾ききった固い地面に刻まれたその足跡は不自然で、見ていると思わず身震いしてしまいそうなほどだ。

 「まぁ、同じ人間だとは思いたくねぇよな」

 五十嵐はケースケの指差した足跡を見ると、異次元の怪物を見るような目で数十メートル先の夜神と前夜を遠くにみた。


「私はこの隊にいる人は全員人間だとは思いたくないですけどね…」イーチェンは独り言のように呟いた。



「隊長、何で止めるんですか」前夜は少し落ち着いたのか、夜神と向かい合うと懐疑かいぎの眼差しを静かにむけた。


「冷静になるんだ。君が無策に飛び込んでしまったら、はぎ防衛局の後ろにいる『守るべき民』が守りきれなくなる。局の隊員はこまだ、市民のたてとなる駒なんだよ。彼らが時間を作ってくれている間に僕たちは本部と合流するべきだ。」


 夜神は有無うむを言わさぬように捲し《まく》立てると、乾いた目でこちらをみつめる前夜の腕を引いて走った。


 前夜もまた、力のぬけた体をどこか他人顔で眺めていた。自分達がただの駒に過ぎないなんて最初から分かっていたハズなのに。 どこかで期待していたのだ。


 背中に駒たちの叫びが刺さる。




 ~萩防衛局本部~



 萩防衛局・福岡防衛局などの対ハーメル機関は市民の生活する居住区の入り口付近に局本部を構えていることが多い。そのためハーメルが侵攻してきた際には市民へ被害が及ばないように、隊員は居住区いじゅうくから離れたところで戦闘をする必要がある。


 戦闘区域から萩防衛局本部に到着した一同は局長である江川とハーメル殲滅せんめつ作戦の最終確認を行っていた。


「福岡隊には『ミカズチ』の使用を許可する、奴らを殲滅しなさい。断っておくが、居住区への被害は一切無いようにたのむ。」


 隊員のことは無関心なくせに、市民の顔色は伺うのかよ。

 前夜は口にはしなかったが、強くほおの内側を噛んだ。



 局を出た先駆部隊の一同は、『ミカズチ』を装備すると、隊長の指示を仰いだ。


「五十嵐、イーチェンは右翼側うよくがわの隊員と合流したのち、敵数の把握はあく狙撃そげき誘導ゆうどうを頼む。僕とケースケ、前夜は誘導に沿って正面から敵を叩く。以上、作戦開始!」




「敵数30、タイプ青」


 右翼側からの伝達をきいたケースケは興奮をおさえきれない様子だ。

「なんか、テンション上がってきましたよ~」

 ケースケの発言はいささか不謹慎ふきんしんだが気持ちは分からないでもないなと前夜は思う。なんせ、前夜とケースケにとってはこれが初陣ういじんだからだ。念願が叶うのだ。

 ついに奴らハーメルと戦える。




「まぁ、君たちは初陣だから最初は僕の殺り方をみててね‥」

 夜神は低く言った。その声には先ほどとは違う狂気的きょうきてきな雰囲気があった。








 ★ 『ミカズチ』‥… 宇山(先駆部隊)によって開発された、対ハーメルの武器。

 形状は刀のようで、先端が猛烈な熱をもつことでハーメル

 を焼き斬ることが出来る。詳細は公開されていない。


 ミカズチの名前は日本神話におけるタケミカズチノカミ(武神)由来している。

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ハーメル 三冬 はぜ @naohituzi

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