第2話


「柴神隊長!」 

 前夜は独り先を歩いている柴神に駆け足で追い付くと、その強面こわもてながら整った男の横顔をのぞき込んだ。

「隊長、ケースケは置いていくんですか?」


 着替えに手間取っているケースケを最初に見捨てた張本人ちょうほんにんである前夜は自分の事を棚に上げて、非難するような口調で柴神にたずねた。 そして柴神は前夜の目をじっと見てこたえた。


「忘れてた ・・・・・。」



 柴神に忘れられたケースケを迎えにいくために、前夜は自分たちの部屋へ引き返していた。

「隊長はどっか抜けてんだよな、まあ実力あるから許されてるとこあるよな」


 多少の愚痴ぐちをはさみながら走り、前夜とケースケの部屋の前で足を止めた。ドアは閉まっていて(男部屋には鍵がない)、中に人の気配はしなかった。ケースケはドアを閉める程まともな人間ではないから、おそらくケースケ以外の誰かがドアが開いているのに気がついて閉めてくれたのだろう。つまり、ケースケがこの部屋を出たのはかなり前であるということだ。


いやな予感するわー」


 前夜は大きめのため息をはくと、ケースケが居るであろう場所へ走った。



「隊長、もっとしっかりして下さい。」

 前夜をケースケの元へ向かわせた後、 イーチェンは申し訳なさそうな顔の夜神に追い討ちをかけるように厳しい口調で言った。


 彼女は日本と中国のハーフであり、東京都滅亡めつぼう後、各国が日本との間に隔てた壁によって行き場を失った交換留学生こうかんりゅうがくせいだった。彼女は中国人特有のつり上がった目をしているせいか、どこか厳しい印象をうけるのだが信じられない程に声が美しいのだ。この声はF分の1の揺らぎとうらしく、この声にはハーメルの戦意を喪失そうしつさせる効果があるらしく、元一般人のイーチェンは軍に大変重宝ちょうほうされているのだった。


 夜神はイーチェンからしかられたのは気にしていないらしく、「うん」と小さくつぶやくと、2人を引き連れてはぎ防衛局へと向かった。



 さて、前夜の嫌な予感は的中していた。食堂に飛び込んだ前夜の目に映ったのは、ガラガラの食堂の真ん中で、カレーライスを頬張ほおばるケースケの姿だった。

 前夜がケースケに飛びかかったのは言うまでもないだろう。





 前夜とケースケは夜神たちと合流した後、福岡防衛局が開発し、隊員以外は乗車の許されない超快速「まずる」に乗り込み萩防衛局に向かった。



 ~萩防衛局~


 状況は悲惨だった。まずるを降りた一同を迎えたのは興奮した様子の青のハーメル達で、萩防衛局隊員は武器が通用しない固い装甲そうこうをまえに絶望し、手榴弾しゅりゅうだん片手に特攻とっこうに近い無駄死を繰り返していた。

むごいことを」

 前夜は怒りに声を震わせながら《ルビを入力…》1体のハーメルに向かって刃をむけた。





 ★ちょこっと説明


 ・福岡防衛局・・・九州地方に避難した日本国民が多く集まる福岡県にある、最大の対ハーメル機関。憲法けんぽう法律ほうりつの外に

 あるため、正規の軍隊ではない。


 ・先駆部隊・・・福岡防衛局にある最強の部隊。前夜とケースケは臨時りんじのお試し隊員である。





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