ハーメル

三冬 はぜ

第1話

 西暦2100年

 分娩室ぶんべんしつに鳴き声が響き、母が泣いていた。





 

 2092年5月3日

 日本の首都東京にて突如、未確認生命体を確認。


 同年 5月6日

 未確認生命体の攻撃により、東京都壊滅。

 その後、未確認生命体 通称「ハーメル」の破壊は、東京につづいて、埼玉・群馬・新潟にまでおよび、大半の権力者は逃げるように日本を捨てて、国外へ逃げた。また周辺諸国は日本に突如現れた怪物を恐れ、日本との国境に高く長い壁を築いた。

 

 そして指導者、逃げ道を失った日本人は安全区域とされた九州に移住を余儀よぎなくされたのだった。





 2115年


「緊急、緊急、萩防衛局はぎぼうえいきょくより福岡防衛局へ応援要請あり。現在約30体のハーメルに包囲され、壊滅寸前との連絡あり。福岡防衛局先駆ふくおかぼうえいきょうせんく部隊は直ちに萩防衛局にむかえ。なお指揮権は柴神しばがみ部隊長におく。 」

 

 防衛局内に数多く設置されているスピーカーの音量の大きさに苛立ちながら、雨野 前夜あまの ぜんやは二段ベットの上段から飛び降りた。「応援要請だってよ、今月でもう何回目だよ」 

 前夜はわざとらしくそう言うと後ろでゴソゴソ布団から這い出る同室の 伊坂 佳祐いさかけいすけ の腕を掴み、無理矢理引きずり出した。

「あ~あ―」

情けない声を上げるケースケの体を放り捨てると「ウブっ」と鳴いていた。 

 ケースケと前夜は幼馴染みで、2人はお互いの間合いをよく理解していた。


 着替えるのが早い前夜は、ケースケをおいて部屋を出た。

 

 とにかく広いこの福岡防衛局は、隊員の生活する寮と局の本部とが繋がっている。そのため隊員は召集がかかると、主に軍事作戦をたてる本部の機関「ハーメル対策室」に直行するのだ。

 

前夜は「ハーメル対策室」に着くと既にそこには先ほど召集を受けた、先駆部隊の隊員が、絶賛寝ぼけ中のケースケを除いて4名揃っていた。


「皆さんすいません、遅れました」

基本的に真面目な前夜は深々と頭を下げた。  すると話を遮るように「おうおう、それは良いんだけどよ、ケースケのガキはまた寝坊か?」 先駆部隊副部隊長の 五十嵐 《いがらし》あらし が大きな笑い声を響かせると、前夜の首に腕を回した。五十嵐は名前のとおり、とにかく豪快極まりない男で、体格は平均的な体つきである前夜の倍はあり、その声量も2倍でかい、30半ばの大男だ。

 そんな男に首をロックされた前夜は苦しさから顔を真っ赤にさせて

「そ、そうなんですよ、だからアイツの事は気にせず進めて下さい。それと五十嵐さん、僕そろそろ息が限界です‥」  

 

解放された前夜は首もとを擦りながら「宇山さん、今回のハーメルは何色ですか?」そう作業的に尋ねた。「今回はねー、青だけよ」そう答えたのは先駆部隊の情報担当である 宇山うやまだ。下の名前は教えない主義なのだそうで、彼女の詳細を知るものはいない。そのため宇山というのも偽名なのではと疑われている。

しかも彼女は誰が見ても魅了される和美人であることに加えて、対ハーメル専用の特殊な武器を開発した超天才でもあるため、謎多きクールビューティーとして局内ではかなりの有名人なのだ。


「青ですか、それなら萩の防衛局の方で何とか出来ないんですかね」前夜はあきれたように大きく背伸びをした。  

 


ハーメルには大きく分けて3種類いる。最弱の青(最弱ではあるが、一般的な武器は通用せず、一体につき、殺すのに最低20名は死亡する)・一体だけでも甚大じんだいな被害をもたらす赤・東京都を破壊した黒のハーメルだ。



「仕方ないわよ、萩は実戦経験がほとんどないもの。」宇山はそう言うと、部屋に大きくかかったスクリーンに近づいて、「今回の作戦はシンプルです。青のハーメルを一体残らず殲滅せんめつさせるだけです。注意点があるとしたら、やりすぎて防衛局を破壊しないことですかね。」


 宇山の話が終わると、宇山とケースケを除く4人はそれぞれ特殊な武器を担いで部屋を出た。

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