第27話 日頃の行い
それから1週間、僕は生徒会活動と試験勉強の荒波に呑まれながら、学校生活を過ごしていた。
元々勉強は物理しかやる予定はなかったが、藤宮先輩の言葉を受け、化学も時間を見つけて学習している。いつもの中間試験と比べて学習量は増えるが、休日を使って補っていくつもりだ。
試験勉強は分かりやすく点数が出る、自分磨きの指標としては分かりやすくて良い。それが全てとは言わないが、せっかくの定期考査なのだからレベルアップの機会として利用させてもらおう。
ただ、学校での勉強は正直楽ではなかった。
「お願いユッキー! 昼食奢るから、対価はそれで勘弁してもらえないでしょうか!?」
1度は真宵の問いかけから逃げ出した晴華だったが、対価を替えて僕に勉強を教わりに来た。
正直対価など受け取らなくても一緒に勉強くらいするが、真宵にもらった手前、晴華から受け取らないわけにはいかない。
まあこれで一緒に昼食を摂るきっかけを作りたかった晴華の作戦にまんまと引っかかったわけだが、昼食代が浮いたのでどちらかと言えばプラスである。というか少しずつ戦略を覚えてきたようで怖くなってきた。経験を積んだら一気に化けそうだなあいつは。
――また別の日は。
「勉強するなら一緒にしようよ」
「私も一緒でいいですか!?」
文系ガールズの美晴と朱里と一緒に勉強した。特に教え合うこともなかったのに、何故かオープンスペースで。
真宵と勉強した翌日に晴華、その翌日に美晴と朱里。通りかかった人間が見たら僕はどんな風に見えるんだろうか、想像したくもないな。
とまあ精神的には決して楽ではない状況ではあったが、知識を蓄えることには成功している。文系ガールズとの勉強は視線が痛かっただけで普通に捗ったしな。
それより面倒なのは生徒会選挙。1年生の訪問を終えた後、3年生へ伺うことにした雨竜だが、僕の出番は全くなかった。1年生たちを沸かせていた時とは違い、時間は短く、真面目に公約だけを伝えて教室を出て行く。
『受験勉強の邪魔は極力避けたいからな』
言いたいことは分かるのだが、だったら僕が着いていく理由なくね? 先輩の教室に入って何もせずにただ佇んでいる僕の気持ち考えたことある? 気まずいなんてレベルじゃないから、『お前何も喋らねえのかよ』みたいな視線集めてきついんですが。
『嘘つけ、お前にそんな繊細な心はないだろ』
しかしながら、これが暴君青八木雨竜のコメントなのである。確かに豪林寺先輩以外の人間にどう思われようが知ったことではないが、どこから豪林寺先輩に情報が分からないのだ。余計な詮索もされたくないし、用がないなら着いていく必要はないはずで。
『いや、俺だけ大変な思いするの嫌だし』
しかしながら、これが非道青八木雨竜2つ目のコメントなのである。だったら最初から3年の訪問なんていらないのだが、選挙活動は徹底してやるべきだと雨竜は譲らなかった。
そりゃ1年生の教室だけ行って3年生の教室に行かなかったら『なんだあいつ』となるかもしれないが、そもそも対抗馬のいない信任投票でそこまで頑張る必要があるのかという最初の疑問に戻ってくる。石橋を叩いて渡るといえば聞こえはいいが、僕に言わせれば無駄そのもの。多分こういうところなんだろうな、氷雨さんが雨竜に厳しい理由って。マニュアルは大切だが、それを遵守する必要があるかは状況を見て判断すべきだと思う。
まあ僕は雨竜の奴隷同然なので口を挟ませてもらえないんですけどね、出雲の勉強のためとはいえホント面倒な仕事だ。
「……」
そういうわけで今日は2年Eクラスの訪問。1年や3年以上に行く必要のない学年だが、勿論雨竜の方針で全クラス回る。1年クラスを回ったときのように雨竜が僕に話を振って教室を沸かせるという展開で進めていたが、1年クラスと違って全員が笑っているわけではない。
……これに関しては僕の日頃の行いが完全に災いしている。
僕の塩対応の被害を一番受けてきたのは、関わりの多い同学年だ。それ以外にも、雨竜に関して恋愛相談してきた奴らは全員玉砕しているし、そんな僕が相変わらず雨竜と一緒にいるのだ、快く思っていない生徒はそこたら中にいるだろう。
――特にこのクラスには、翔輝の件で一悶着あった馬鹿2人がいる。先ほどから厳しい視線が送られているのはとうに気付いている、だからといって何かをするわけではないが。
仕方ない、こればっかりは自分が蒔いた種だ。あの頃の自分を否定するつもりはないし1人1人に謝るつもりもないが、これ以上出しゃばるつもりもない。互いに干渉せずに過ごしていくのが良いだろう。
「はあ」
雨竜のスピーチ中に軽く溜息をつく僕。今までは僕がサボりたくて行く必要はないと言い続けてきたが、2年については真っ当な意味で僕が回るべきではないと思う。僕といるから雨竜の評価が下がるなんてことはないと思うが、僕がいるせいで笑えていない人間がいるのも事実。これが選挙活動だというならプラスに働いていない気がする。
再びクラスを見回したとき、明らかな違和感を覚えた。皆が雨竜のスピーチに耳を傾けている中、馬鹿2人がにやつきながら僕の方に視線を向けていた。先程までは確実に怒りの感情をぶつけてきていたはずなのに、何か面白いことを期待するのかのような表情だ。
嫌な予感はするが、あいつらに割く時間の余裕はない。楽しそうなら結構、勝手に楽しんで自己完結してくれ。
「おい雪矢、俺の話聞いてたか?」
「聞いてるわけないだろ、もう1回スピーチしてくれ」
「なんで推薦人のためにスピーチするんだよ!」
そんな風に今日もテンプレートで教室を沸かせながら、僕は雨竜と不要な選挙活動に勤しむのであった。
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