第14話 待ち伏せ

「それじゃあ頑張ってねえ!」


そこそこ長い生徒会選挙の説明を聞き終えた僕と雨竜は、生徒会長さまの暢気なお見送りによりその場を後にした。


しかしあの人、ホントにハートが強いな。今日だけで何回も地面とお友達になってたのに今やあの笑顔だし、トップに立つ人間というのはあそこまでメンタルが強くなくてはならないのか。僕も見習わなければ…………いや、あの人はいいや。


「いやあ、長い時間だったな」


僕同様、雨竜も少しだけ疲労を見せながら呟く。何でもそつなくこなす男といえど、あの特殊環境で平然としているのは無理がある。生徒会室を特殊環境と言っていることに自分で疑問を覚えるが、ゲームの世界なら毎ターンMPが減りそうな環境だ、僕は間違っていない。


「ところで雪矢、選挙活動の詳細は覚えてるんだろうな?」

「お前は僕を何だと思ってるんだ、さっき説明してもらったばかりだろうが」


コイツめ、周りには優しく振る舞ってるくせに僕の扱いが雑すぎるだろ。


「なんだ、てっきり俺に任せて話を聞いてないかと思ったんだが」

「その通りだ、なんで僕が話を聞いてなきゃいけないんだ」

「お前、さっき俺に向かってなんて言ったか覚えてるか?」

「覚えてるわけないだろ、いちいち過去を振り返るなんて小さい男だ」

「お前ほどじゃないけどな」

「物理的な話じゃねえよ!!」

「いや、その反応がそもそも小さいと思うんだが」

「ぐぬぬ……!」


何なのこの男、ホントに僕に応援させる気あるの? 選挙に手伝わせるって言うならもうちょっと歩み寄ろうとしない? 僕の心が大海より広くなければ派手に決別しているところだぞ。


「で、結局何すればいいんだよ」

「ホントに聞いてなかったのかよ」

「生徒会長って、ウサギ小屋にいれたら3日くらいでウサギと話せそうだなって考えてた」

「お前はお前で自由過ぎだろ」


雨竜は大きく溜息をついてから、気を取り直して選挙活動の説明を始める。


選挙活動をしていいのは朝礼までの時間、昼休み、終礼からテスト勉強に入るまでの時間、その3つ。


教室に赴いても良し、校門や食堂など人が多そうな場所で主張しても良し、申請すれば校内放送を利用しても良いそうだ。


生徒会長としての公約もそうだが、そもそも立候補しているのがどういう人間なのか知ってもらうことが重要なのだそうだ。そりゃ奇麗事なんて誰にでも言えるしな、生徒会長立候補者を間近で見て、信頼できるかどうかはその時に判断すべきだろう。


「という感じだが、ちゃんと覚えたか? 復唱するか?」

「いらんわ、たった今聞いたことだぞ」

「……おかしいな、ついさっき同じようなことを聞いた気が」


はて? 残念ながら記憶にございません。


「とりあえず、教室訪問以外しなくていいだろ、意味がある気がしない」

「だな。校門や食堂でアピールしてもおそらく刺さらない」


1度に多人数へアピールできる場としては悪くないが、それ故に、個人に向けて言われている感がどうも薄れてしまう。自分に言われてることではないから関係ない、そういう認識を持たれたら意味がないのである。


その点教室ならばクラスの人間に向けて話すという大まかな矢印ができるため、各々が興味を持ちやすい。学校単位で選挙するならこちらの方が効果があるだろう。



……まあ、青八木雨竜という枠で考えるなら選挙活動すらいらない気もするが。コイツを知らない人間なんて陽嶺高校にいないだろ。



「じゃあ早速、今日の放課後から――――」

「ああ! やっと戻ってきた!!」


今後の選挙活動について話ながら歩いていると、廊下の向こうからそれはもう大きな声が僕らに向けて飛んできた。


「いつまで生徒会室にいるの! 後昼休み30分ないよ!?」


理不尽な怒りを見せつけてくるのは、朝からお騒がせ続けている我が学園のマドンナ兼ポンコツ、神代晴華である。


その脇には、ちょっと困ったように笑う我が学園のマドンナ兼ポンコツの月影美晴の姿もあった。


「いや、いきなりどうした?」

「いきなりじゃないよ! 昼休み終わる前に『一緒にご飯食べよ』ってラインしたでしょ!?」

「授業中にラインを送るな」

「あたっ!」


悪さを働いた子には制裁を加えて然るべき、というわけで晴華の頭にチョップを入れました。


「もう! なんで叩くの!? こうしてる間にも昼休みはなくなっていくんだよ!?」

「うるさい、文句なら雨竜に言え。僕を生徒会室に連れて行った張本人だ」

「ウルルン! ユッキー独占してばっかりでズルい!」

「ウルルンじゃないが、まあ神代さんの話聞いてたら雪矢まで連れて行かなかったけど」


そうなの? だったら適当言ってばっくれれば良かった、生徒会室行ってもミュージカル見せられただけだし。


「ちょっとユッキー、ウルルンこう言ってるんだけど!」

「いやいや、そもそもお前と昼ご飯一緒に行くとは言ってないだろ」


このお嬢さん、自分の気持ちに気付いてからブレーキのかけ方を知らない。グイグイ来るのに合わせていたら僕の体力が保たない気がする。


「ん? どうしてユッキー来てくれないの?」

「どうしてって」

「友達とご飯食べるだけだよ? もしかして先客あった?」

「いや、別にないが」

「だったら大丈夫だよね! 友達とご飯食べるだけだもんね!」

「んー、そりゃまあ」

「別に2人きりってわけじゃないよ? ミハちゃんだっているし!」

「そ、それならいいのか……?」


あれ? グイグイ来る晴華のペースに呑まれないようにするって話じゃなかったっけ? いやでも、友達とご飯食べるだけだし、美晴もいるならそこまで恐ろしい展開にはならないか……?


「そうと決まれば早速ゴーだよ! 昼休みもうないんだから!」

「お、おい! いきなり引っ張るな!」


僕が考えるより先に腕を引っ張り廊下を進む晴華。いやだから、お前にそういうことされると目立つから嫌なんだって! お兄さん何度も言ってるよね!


「雪矢君、いつも大変だね」


美晴さん、そんな優しい笑顔で言ってる暇あったら止めてください。あなたの親友が暴走してるんです、お願いですので他人事のように言わないでください。


「いやあ、楽しい昼休みだな今日は」


黙れウルルン、ニヤニヤすんな。お前のせいで朝から落ち着く暇もないんだよ、抹茶くらい奢れこん畜生。

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