第13話 アンケート
「お言葉ですが先輩、雨竜は年がら年中ホットな週刊誌も喜ぶ騒がせ野郎ですが、僕は花壇の隅っこに咲く雑草みたいなものです。一緒にしないでくれません?」
「あはは! 廣瀬君は自虐が過ぎるね、もしかして今のボケ? だったらもう少しおちゃらけてくれないと突っ込めないよ!」
ケラケラと笑う生徒会長さまだが、どうして僕渾身の言い分がボケ扱いされているのだろうか。紛う事なき本心なのだが。雨竜と同列で扱われていることに抵抗しか感じない、同学年どころか全学年にすら認知されている男と並べられて堪りますかい。
「姫子さん、廣瀬さんがものすごく怪訝そうな表情をされてます。理由を説明してはどうですか?」
「それもそうだね!」
茉莉先輩の提案を受け、机の上にあった紙切れを1枚持ってきてじゃじゃーんと言いながら見せてくる生徒会長。
「これだよこれ、見覚えあるでしょ?」
白い紙には『アンケート』と書かれていたのだが、はっきり言って一切見覚えがなかった。紙飛行機にして飛ばしたか、それとも裏紙として再利用したか。記憶にございません。
「それ、雪矢知らないですよ。後夜祭出てないので」
「えっ!? なんで出てないの!? あたしたちけっこう身体張ってたのに!?」
どうやら後夜祭の際に配っていたアンケートのようだった。それならば僕が知らなくても仕方がない、体育祭の閉会式以降校庭に足を踏み入れてないからな。
しかしながら生徒会、そんなところでも身体を張るのか。何をやったか知らないが茉莉先輩と楠伊緒の顔色が変わったことから相当面倒なことをさせられていたのだろう、1年間お疲れ様です。
「まあ説明すると、後夜祭のときに『どの競技が1番楽しかったか』アンケートを取ってたのね。あたしたちとしても来年以降の生徒会に残せるものは残しておきたいし」
成る程、それ自体は良い試みだ。イベントをやりきって終わりだと今後に繋がっていかないからな、反省会を兼ねる意味でも生徒に聞き取りするのは大切だ。
ただそれを、全員参加ではない後夜祭で行うのはどうかと思うが。今日の朝礼時に配れば良さそうなものだが、それだと体育祭の熱が冷めてしまってあまり効果がないのかもしれない。鉄は熱いうちに打った方がいいしな。
「アンケート自体は何年も前からやっててね、だいたい結果は応援合戦、団選抜リレー、部活動対抗リレーって続くんだけど、今年はぶっちぎりで騎馬戦が1位だったわけ。応援合戦が2位になったのは初めてみたい」
「それで姫ちゃんはお前らをホットな2人って言ったわけだ。騎馬戦が1位になる理由って言ったらお前らの活躍以外あり得ないからな」
「そうそう! 端から見てても歓声がすごかったし!」
生徒会長と木田さんが再度僕と雨竜を持ち上げるように言葉を紡ぐ。
体育祭を盛り上げるのに貢献したと言われれば悪い気はしないが、僕からすれば敗戦を味わった苦い記憶しかない。周りが言うほど気分が乗らないのが現実である。
「そんな2人が今度は生徒会長を懸けて戦うって言うんだからテンション上がっちゃうよねって話! いやあ、こりゃあたしたちの時を超える戦いを見られるかもしれないね!」
そしてその結果、大きな勘違いを生んでしまっている。どうやら生徒会長さまは、僕と雨竜が再戦すると思っているらしい。状況だけを見たらそう思えなくもないが、誤解はしっかり解いておこう。
「あの、僕は生徒会選挙出ませんよ? 出るのは雨竜だけです」
「えっ、ええええええ!?」
冷静に返すと、今まで楽しげに語っていた生徒会長が顔色を変えて僕の両肩を掴む。
「どうして!? どうして出ないの!? 出ないのにどうしてここ来たの!? 暇人なの!?」
ぐわんぐわんと肩を揺らされ、僕の怒りゲージが少しずつ上昇していく。先輩じゃなければ僕の強烈なチョップがとっくに炸裂しているところだ。
「やめてくださいはしたない」
「いだっ!」
MT3(マジで手が出る3秒前)に差し掛かる前に、幼馴染みの暴挙を止めてくださった茉莉先輩。身長関連では宿敵も良いところだが、ここまで常識的な人が周りにいないのでなんか安心する。
「生徒会とは自主性を重んじるところです、強要してどうするんですか」
「だってぇ、体育祭からの流れを考えたら戦うべき2人じゃん……」
「いやいや、戦ったところで僕が雨竜に勝てるわけないでしょ」
騎馬戦のときだって付け焼き刃が過ぎたものだった。それすら勝利の判定にならなかった。そんな化け物相手に今度は人気で勝負しようって言うんだ、アイドルに人気投票で勝てる一般人がいるわけないだろ。
「そうかな、良い勝負しそうだと思うんだけど……」
僕の弁明など右から左で、不満げに声を漏らす生徒会長。寝言は寝て言ってください、誰しもがあなたのようにタフではないんです。
「じゃあ廣瀬君、今日は何しに来たの?」
「コイツに選挙の推薦人頼まれたんですよ、選挙日までいろいろフォローしなきゃならないとかで」
「ああそっちか。面白対決じゃなく最強タッグになっちゃったのか」
今この人、僕と雨竜の戦いを面白対決って言わなかった? 別にバラエティの枠でやってるつもりないので訂正していただけないでしょうかね。そもそも他人を巻き込んでやってるつもりもないわけだが。
「うーん、それだと今回の立候補は青八木君だけかなぁ?」
「受付始めたの今日だし、そうとは限らないでしょ」
「でもなあ、こういうのって初日来なかったら結局誰も来ないパターンでしょ? 信任投票だけは嫌なんだけど、面白くないし」
ちょいちょい本音が見えてくる生徒会長さまだが、誰も咎める様子がないところからこれがデフォルトなのだろう。学校生活の改善を図っていく生徒会が面白いことを求めるのは悪くないはずなのだが、こうも露骨だと注意しても良い気がする。いや、注意したところでこの人が直るとはとうてい思わないが。
「あっ、そうだ! 伊緒ちゃん立候補しちゃいないよ!」
「は、はいいいいい!?」
名案とばかりに手を鳴らした生徒会長だが、当の本人である楠伊緒は悲鳴にも似た声を上げた。
「せっかく1年間役員として頑張ってきたんだし、この際生徒会長としてデビューしちゃいなよ!」
「無理に決まってます! 信任投票ならいざ知らず青八木君と戦う!? 馬鹿も休み休みに言ってください!!」
「い、伊緒ちゃん? あたし一応先輩なんだけど……」
「先輩なら後輩に恥搔かすような提案しないでください! 強者が弱者を蹂躙する姿なんて全然面白くないですから!」
「茉莉ちゃん! 伊緒ちゃん、遅れてきた反抗期に……!」
「楠さんの言い分が全て正しいです」
「ぐはっ! また周りに味方がいない……」
うん。今日初めてなのに見慣れた光景になったよ。
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