第12話 生徒会発足過程
「いやあ、お恥ずかしいところを見せちゃったな~」
生徒会を害悪であるかのような発言をした子鹿先輩だったが、茉莉さんの説教を受け正気を取り戻したのか、頭を搔きながら再度僕らの前にやってくる。いつになったら生徒会室に入らせてもらえるんだ、これもう昼食食べる時間ないだろ。
「自己紹介いらないかもだけど念のため。私は藤宮姫子、この学校の生徒会長さまだぜ」
そう言って右手でピースを作ってポーズを作る藤宮先輩。なんというか、褒めて良いのか分からない切り替えの早い人だな。
「ささ、みんなも自己紹介してよ」
「生徒会役員が今更自己紹介する必要あるか?」
「すみません、生徒会役員の顔も名前も知らない奴がいるのでできれば」
「うそ、私たちってそんなに知名度ないの……?」
「おい雨竜、目の前にいるのにそんなこと言ったら失礼だろ」
「誰のせいだ誰の!」
どうやらさっきまで生徒会そのものを知らなかった僕への配慮だったらしい。まあさっきの寸劇でなんとなく把握したから省いてもらっても構わないが。
「って言っても俺のことは分かるだろ、副会長の木田だ。黄団の団長もやってたわけだしな」
右手の親指を自分に向けながら木田さんが自己紹介する。さすがにこの人は知ってる、ハレハレを応援合戦に加入させた件で豪林寺先輩に口添えしてもらったからな、悪い人ではないだろう。
「私は会計の堂島茉莉です」
そして先ほどから一切表情を変えずに振る舞っているのが、自己紹介でも余計な情報を挟まない茉莉先輩。この生徒会の常識枠だと思いたかったが、先程から藤宮先輩への当たりが強く少々恐ろしい。
しかしながら、その恐怖心に打ち勝ってでも僕は、この人に質問しなければならないことがある。
「堂島先輩、大変失礼を承知でお聞きしたいことがあるんですが」
「なんでしょう?」
「先輩の身長は何センチなのでしょうか」
「176センチですが」
「ぐはっ!!?」
心臓に強烈な一撃を見舞われ、僕は思わずその場に倒れ込んでしまう。背の高い方だとは思っていたのだが、実際に僕より背の高い女性を見るのは初めてのことだった。
「……いや待て、遠近法による目の錯覚で、偶然見上げているのかもしれない……!」
「現実逃避するな、さっきはっきり数値を聞いたろ」
「くそお、なんだよ176って、四捨五入したら2メートルじゃないか……!」
「四捨五入する桁間違ってるぞ」
170センチ以上の女性ってテレビの中でしか存在しないんじゃないのかよ、現実で遭遇したらそれはもう都市伝説じゃないっす。
「ふふ、茉莉ちゃんはすごいんだから! 引退する前はバレー部のエースでスパイク決めまくりだったんだよ!」
「決めまくりということはないです。全力で跳んでネットの上をギリギリ通せただけですから、1試合で5回が限度でしょう」
生徒会長のお褒めの言葉にも冷静に返答する生徒会会計。漫画ならばその限度を超えて撃ち合っていくのだろうが、この人が言うなら本当に5回こっきりの必殺技という感じがする。というかこの人運動神経良いんだな、落ち着いた雰囲気の人だから勝手に頭脳派だと勘違いしてた。
「私の紹介は充分でしょう。次は楠さんの出番です」
「は、はい」
堂島先輩はあくまで自己主張は抑え、業務の一環であるかのように手番を最後の女生徒へ移す。僕と雨竜の視線を受けた彼女は、照れ臭そうに前髪を触りながら口を開いた。
「しょ、書記の楠伊緒です。生徒会には姫子先輩に誘われて入りました……」
何だか僕らが萎縮させてるんじゃないかってくらい声に覇気がない。さっきのミュージカルを見られたのが相当尾を引いてるのかもしれない。もしくはこの女生徒も雨竜のファンの1人なのか、校内を5分歩けば雨竜好きの女子と出会うのが陽嶺高校だからな。
「藤宮先輩、お三方は先輩が推薦したってことでいいんですか?」
楠伊緒の自己紹介で気になったのか、雨竜が早速生徒会長へ質問する。
「そうだよー。木田君は元々会長選挙で戦ってたからね、可哀想だから副会長に選んであげたの」
「その節はどうもどうも」
随分酷い言われようだが、木田さんはあまり気にしていないらしい。藤宮先輩と生徒会をやれればそれで良かったのだろうか。
「茉莉ちゃんは小さい頃からの幼馴染みで1番信頼してるから入ってもらったの! 運動もできるし頭も良いし!」
「私はただのお目付役です、姫子さんは監視しないと何をやらかすか分からないですから」
「あはは、茉莉ちゃんは大袈裟だな!」
いや、先ほどの状況を見る限り、大袈裟で片付けるのは無理がないですかね。
「伊緒ちゃんはバド部の後輩だったのがきっかけかな、作戦会議のときよく内容をまとめてくれたから適任かなと思って」
「買い被りが過ぎるんですが断る間も与えてくれなかったので……」
「成る程、参考になりました」
生徒会ができるまでの過程を教えてもらっていたわけだが、藤宮先輩の独断のようで意外と理に適っているのがすごい。交友関係から攻めているのに各々が適切なポジションにハマっている、同学年だけにはならずに次期生徒会のことも考慮されている、これが偶然だとしたら大したものである。
「あと1つだけ。さっきちらっと聞こえたんですが、理不尽多数決とはなんでしょうか」
雨竜の言葉で、堂島先輩と楠伊緒の表情が僅かに曇る。それに気付かないのか見て見ぬ振りをしているのか分からないが、藤宮先輩は笑顔で返答した。
「理不尽っていうのは分からないけど、普通に多数決のことだよ。体育祭とかのイベント毎でどういう風に進行するか意見を出すんだけど、全部が全部満場一致になるわけじゃないからね。そういうときは多数決を取るんだけど4人しかいないからさ、2対2になったときは生徒会長である私の意見が採用されるってだけ。別に変じゃないでしょ?」
「そうそう、ホントに姫ちゃんの意見がダメなら2対2にはならないからね」
「「……」」
木田さんへ書記と会計のジト目が送られるが一切堪えてない模様。
成る程。生徒会長が提案する荒唐無稽な内容も、木田さんが面白がって2対2にするから基本実行に移されるわけだ。堂島先輩や楠伊緒が理不尽と言いたくなる気持ちも分かる、今日もその理不尽に付き合わされてミュージカルをやってるわけだし。今までどんな理不尽を強いられてきたか知るよしもないが、心中お察しします。遂に解放されて良かったですね。
「しかし、今年は誰が立候補するのかみんなで話し合ってたわけだけどさ」
話が切り替わり、藤宮先輩が楽しげな表情で僕と雨竜を見る。
「まさか今1番ホットな2人がやってくるとは、生徒会ってのは退屈しないねえ」
生徒会長の意味深な呟きに、僕らは同時に首を捻った。
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