第11話 生徒会役員

「ちょーい! ちょいちょーい!」


目の前の教室が生徒会室である現実を受け入れられないまま立ち往生していると、中から変な掛け声と共にドアが開かれた。


1番最初に歌い始めた女生徒である。


「どうしちゃったの君たち? あんなに熱烈な歓迎を受けてドアを閉める……? 一体どんな待遇なら満足するってわけ?」


女生徒は呆れたように怒気を含ませ問いかけてくるが、これって僕らが悪いんですかね。どんな待遇も何も、普通に出迎えてくれれば良かったんですが。


「分かるわ君たちの言いたいことも。今まで学校生活に潤いを与え続けてきた生徒会という組織が、最後にどんなアクションを起こすのか。私たちも当然それに応えたかった」

「いや、あの」

「だからこそ私たちはミュージカルという意表に意表を重ねた戦略でお出迎えをしたというのに、表情も変えずにドアを閉められたらとても傷つくじゃない! こちとら体育祭の運営というとても忙しい中練習したのよ!?」


僕と雨竜が悪者であるかのように女生徒は拳に力を入れて饒舌に語るが、生徒会室に行ったら唐突にミュージカルが始まって困惑させられた身にもなってほしい。


「ほら! みんなも黙ってないで何か言って!」


僕と雨竜があまりに淡泊な反応を示したせいか、女生徒は中で待機する生徒会役員へ呼びかける。


その合図で、見覚えのある男子生徒はニヤニヤし、気の弱そうな女生徒が顔を赤らめ、無表情の女生徒が手を上げた。


「それじゃあ姫子さん、1つよろしいですか?」

「おお茉莉ちゃん! 後輩たちにガツンと言ってあげてよ!」


コロコロ表情の変わる姫子と呼ばれた女生徒とは対照的に、ほとんど表情の変わらない茉莉さんとやらが酷く冷静にはっきりと言ってのける。



「どう考えても青八木さんたちの反応が正しいです」

「えええええええ!!?」



唐突に身内に裏切られたショックで大きな声を上げる姫子さん。


そのことに少なからず安堵する僕と雨竜。どれだけバグった生徒会なのかと思ったが、正常な思考をしている人もいるらしい。


「どうして次期生徒会役員になりたいだけなのにミュージカルを見せられなければいけないんですか。むしろ先生方へ即通報されないだけマシだと思った方が良いです」

「そこまで言う!? 茉莉ちゃんだって最終的には一生懸命練習してたじゃん!」

「理不尽多数決で決定しましたからね、やると決まった以上妥協しなかっただけです。私も楠さんも初めから否定派でしたが」

「そうですよ! 姫子先輩が絶対盛り上がるからって渋々練習したのに、結果このザマです!」

「ザマ!?」


茉莉さんと楠生徒のお言葉を受け、よろよろ身体を動かす姫子さん。あっと言う間に劣勢に追い込まれた女生徒の視線は、この状況を楽しそうに眺める男子生徒へと注がれた。


「木田君……? 君は私の味方だよね……? ミュージカルもノリノリで快諾してくれたよね……? じゃなきゃ多数決成立しないもんね……?」


ゲームに出てくるゾンビのように両腕を彷徨わせ、男子生徒へジワリジワリと近付いていく姫子さん。言い回しが若干猟奇的でホラー感が否めないが、この状況に慣れているのか、木田さんはまったく臆する様子もなく、笑顔で右手の親指を上げた。



「俺はいつだって姫ちゃんが恥を搔く方に全レイズだから!」

「ぐはっ!!」



信じていた相棒にトドメを刺され、姫子さんは為す術もなくその場にへたり込んでしまった。ブルブルと全身を震わせる姿は、失礼ながら生まれたての子鹿のようである。



「おい雨竜、僕らは何を見せられてるんだ?」

「知るか、俺に聞くな」



お手本のようなオチにより一旦区切りが着いたので、小声で雨竜に尋ねるが、どうやらコイツも現状況についていけていないようだ。人という枠を超えた人外である雨竜が着いていけない空間とは、生徒会というのは恐ろしいな。いろんな意味で。



「元々藤宮先輩はお祭りガールみたいなところはあるんだけど、ここまではっちゃけてたのは予想外だったな」

「藤宮先輩って誰だ」

「文脈で察しろや!」



どうやらあそこの生まれたての子鹿が藤宮姫子さんと言うらしい。小柄な体躯な割にエネルギッシュな印象を受けていたが、今はどう見ても生まれたての子鹿である。



「姫子さん、何傷ついたフリをしてるんですか。いつものことでしょう」

「いつも通りだから傷ついてるって分からないかなぁ!?」

「姫ちゃん大丈夫、今日も最高に面白いから」

「そんなベクトルに磨きをかけてるつもりないんだけど!?」

「ああ……青八木君たちにおかしなところ見られた……これから残り1年半変な目で見られ続けるんだ……」

「伊緒ちゃんはもう少し私を気遣って!? 甘やかして!?」



生徒会室前に来てから約10分、僕と雨竜は1歩も教室内に入ることがないまま、ずっと生徒会役員による寸劇を見せ続けられている。ここまで置いてきぼりにされるなんて誰が想像できただろうか。下手したら昼休み終わるまで入らせてもらえない可能性まであるな、あまりにメンツが濃すぎて関わりたくないまである。



「いつまでも床と仲良くしてないでください、青八木さんたちの応対をお願いします」

「鬼なの!? この状況で私にやらせるの!?」

「この状況だから姫ちゃんにやらせるんだよ」

「おかしい! 私の城なのにこの扱いはおかしい!」

「姫子先輩、生徒会室は学校の一部であって先輩の城では」

「そんな真っ当な指摘要りません!!」



子鹿先輩は床との逢瀬を終わらせると、ゆっくりと立ち上がって大きく深呼吸。その後自分で両頬を叩き、どこか真面目な表情を作ってから僕らの前へ来て一言。



「やめといた方が良いよ生徒会なんて。こんなところ、100害あって1利なしなんだから!」



情緒不安定なのこの人?

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